第23話 勘当の先に

 すれ違った生活に終わりを告げる。

 トイレから出ると玄関の音もなく目の前に同居人が現れ、胸の辺りが悲鳴を上げる。心臓が歪に歪んだのかもしれない。

「もー! 帰ってくるなら連絡してよ! ほんっとにびっくりした……」

「ごめん、深夜だしもう寝てるかと思って」

「おかえり」

「ただいま」

 どこにでもいる恋人同士のように、抱き合ってキスを交わす。

「あ、雑誌見たよ。まさか二週連続で特集やるなんて聞いてなかった」

「朗報だ。なんと三週目も俺の特集をやる」

「わー、すごいすごい。有名人だねー」

「だろ? 中学時代の俺らの写真つきだ。まだ隠しネタがあるんだろうな」

 ふたりでいると、おかしくて仕方ない。絶望を感じた今までの悩みはなんだったのだろうと言いたくなる。

「なんか飲む? おすすめはね、牛乳に蜂蜜を垂らしたやつ」

 キッチンで蜂蜜牛乳をふたり分作り、テーブルに置いた。

「お前も飲むのか」

「眠れなくなって。いろいろお疲れ様。ずっと仕事?」

「夕方までは。夜は実家に戻ってた」

「え」

「実家に戻ってた」

 聞こえないと思ったのか、二度繰り返した。爆弾をふたつ落とされた。

「おじいさんもかなり元気になって、歩けるようにまで回復してた」

「よかったね」

「まあな。で、俺らのニュースも耳にしたらしく、俺の顔を見たとたん、勘当だと」

「感動じゃなくて?」

「そ。勘当。怒鳴り散らされた。その後は母親とちょっと喋ってきた。母親も家を出されそうな状況なんだ」

 後者は言いづらそうに、マグカップに視線を落とす。

「後先考えずにそんなことをしているから、華道も藤宮家の華道も衰退していくんだけどな。頑固なじいさんにそれを言ったところで分かるはずもないから、黙って聞き流してきた」

「お母さんはどうして? 今回の僕らの件と関係ないじゃん」

「俺を育てた母親だから責任を取る名目で、自らの意思で家を出ることになる。それで、母親の新しいマンション探しをするから、また帰る遅くなる。悪いな、ずっと家にいられなくて」

「お母さんここに呼んだら?」

 意外そうにまぶたを持ち上げた。この考えはなかったらしい。

「三人でってことか?」

「うん、あっくんはお母さんといつでも一緒にいられるし、何かあったとき守れるし」

「けど、」

「僕もあっくんのお母さん大好きだよ?」

 本心から出た言葉だった。これだけ応援してくれて助けてもらい、こちらからも何かしたいと思わずにはいられない。

「分かった。母親の意思もあるから、話を通してみる」

「他に何かあった? あっくんずっと不安そうな顔してる」

「話さなきゃいけないことがある。その前にキスしてくれ。疲れた」

「う、うん……」

 どうせなら癒しも提供したかった。

 秋尋の太股に乗り、向かい合う。まだ根が固まらない性器が触れ合い少し距離を空けるが、秋尋は腰に手を回し引き寄せた。

「んんっ……んう…………」

「……、っ…………」

 密着した秘部がすぐに熱を持ち、腰を揺すった。

 堪え性のない欲に嫌気が差すも、秋尋はベルトをガチャガチャ音を鳴らしたので背中に手を回した。

 パジャマと下着を一気に脱ぐと、秋尋も下をすべて取り払う。

 半立ちとなっている欲を掴むと、窓夏のものとひとまとめにして腰を動かし始めた。

 熱を感じ、すれ違っていた恋人とようやく会えた安心感と熱情が混じり、窓夏はあっけなく達する。遅れて秋尋も窓夏の腹部を汚した。

「窓夏のキスってこれだったのか……」

「違う! ちょっと寂しかっただけで」

「隠語になりそうだな。もっと別の言い方に変えるか?」

「……口吸い?」

「江戸時代かよ」

 と言いつつ、しばらく口吸いを続けた。

「話さなきゃいけないことって、お母さんの話じゃなく?」

「いずればれることだし、言わないで信用を失った挙げ句、お前がショックを受ける方をとるか。または包み隠さず話してお前がショックを受けるか」

「どのみちショックを受けるんだね。いいよ、話して」

 黙っていられるよりは全然いいし、もしかしたら対策ができる可能性もある。

「華道の分家があるんたが、俺が婿に行くことになった」

「────…………」

「ほらな、こういう顔になる」

 秋尋は窓夏の頬をむにっとし、鼻や額に唇を落とす。

「どうしようもないの?」

「わざわざ言うほどのことでもないが、気持ちはお前にしか向いていない。相手方は俺が男と付き合っていることも知っているだろうし、どういう対応をとってくるか、だ。断ってくれるのが一番だが、本家の血筋と交わりたいのはあるだろう。抜け道はもう一つあるが、こっちは確証は持てない」

「僕はおとなしくしていればいいんだね?」

「ああ」

 確証が持てないわりには妙に自信がありそうだった。人頼みの方法かもしれないと予想する。そうであれば変な期待を寄せてしまうので、なおさら言えないだろう。

「あっくんどうしよう」

「どうした」

「こっちはおとなしくならないかもしれない」

 泣きそうな声を出し、もう一度下半身を押しつける。混じった体液が垂れてきてへそや足の付け根まで濡らし、淫靡に身体を揺らす。

 秋尋の喉仏が動き、臀部に手が回された。

 後孔がひくつき、身体は秋尋を求めている。慣らしていないが、そそり立つ肉棒の上に乗り、身体を沈めていく。

「んっ……」

「まだ慣らしていないだろっ……」

「大丈夫……早くほしい……」

 窓夏の肉棒が大きな手に包まれ、先端からくすぐるように指が動く。指が先端の窪み、裏筋、精袋と下がっては裏筋を上へ擦る。

 秋尋は小さく引き締まった臀部を掴むと、ゆっくりと沈めていく。

 快感を求める声が響くとソファーが揺れ、テーブルにあるマグカップが揺れた。

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