第1225話 成人式の夜
本年1月。
沖縄では10日の成人式を、9日に行った所と中止したところとの、ほぼ二手に分かれた
成人式の数日前、宮里くん(当時24・脳筋2号)が、自分の後輩達の参加予定だった成人式が中止になったという話をしてきた
「ふふ、俺がやってやろうか?」
「え!やってください、しんけん(マジ)に!」
「じゃあ飯でも喰わせてやるわ笑」
「本当ですか?それ、言っても良いですか?!」
「ん?まあ構へんよ。てか知らんオッサンの話なんて聞きよるかぁ?笑」
俺は半分以上、冗談のつもりだったのだが
宮里くんとしては、本気で後輩達の門出にしっかりと区切りを付けてやりたかったようだ
マジみたいなので仕方ない笑
夕方ウチに来させて、飯でも喰いながらなんか話しようか・・・と考えていた
ところが8日の夜、宮里くんから電話が入る
「あの・・・Tさん、人数なんですけど」
「おう、その連絡待っとったで」
「何人くらい大丈夫ですか?」
「えっ?まあ・・・10人くらいなら」
宮里くんが遠慮しないよう、多めに言ったつもりだった
「あー・・・やっぱそれぐらいですよね・・・」
「えっなに、もっと多いの?」
「いや・・・あっ、皆に言います」
「ちょい待ち。何人よ?」
「・・・23・・・25人とか」
「待て待て待てい!飲み会誘うとるわけやないで?」
「はい、それはもう。ちゃんと訓示言ってもらうだけで大丈夫なんですけど」
・・・真剣に聞いてなかった俺が悪いのだが、宮里くんとしては
後輩達の人生の節目に、親ではなく教師でもない、働く世の大人からのメッセージを、ちゃんと聞かせたいらしい
「なるほど、わかった。ならウチやなくて客室でやろうや」
「・・・良いんですか?」
「みんな着付けとか美容院とか、ちゃんとしてくるんやろ?」
「はい」
「ならええよ。俺も真剣にお祝いの話を考えるから」
というわけで。
このタイミング(コロナ変異型の蔓延)で密に集まらせることには賛否両論あったのだが・・・
1月10日17時から、普段はお客に使うコンドミニアムに、男子14名・女子12名が集まってくれた
俺なりに、大人としての礼節やら責任やら、笑いも交えながら真剣に話をした
そのあと飯を食べ、酒も・・・まあ軽く?飲ませてしまったが
19時に終わる予定が20時半解散となってしまった
やんちゃな子だらけだったが、皆礼儀正しく、真面目に話を聞いてくれた
それよりも何よりも驚いたこと・・・
宮里くんに、あんなに人望があったとは笑
皆、良い顔してた。
良い夜になった。
・・・犯行推定時刻は7日前の22時前後だろうか
現場は赤く染まり、すえた甘い腐乱臭が漂う
被害者少年はハンバーガー片手に、にこやかに微笑みながら血を吐いて横たわっている
1週間振りの我が家。
朝、いつものように洗面所で顔を洗い、畳んで棚に積んであるハンドタオルを取ろうとして
「あれ?こんなに減ってたかな・・・」枚数の少なさに気付いた
隣に積んであるフェイスタオルの半分しかない
普段は同じくらいの高さに積んであるはずなのだ
背後を振り向くが、洗濯カゴは空だ
「いつからこんなに減ったんやろうか・・・」
しばらく洗面台の前で立ち尽くし考えていた
ここのところタオルを大量消費したような記憶はないが・・・
最近なにかあったっけ?
あ、そういえば一週間前、釣り客用コンドミニアムで成人式まがいのことを行った
21時前、若者たちを送り出して片付けを終えると
宮里くんが飲み足りないというので
下の娘に迎えに来てもらい、俺の家で飲み直したよな・・・
キッチンでハムを切っていると
「すみませんちょっとワインこぼしました~」とか言って
勝手知ったる宮里くんが、キッチン横切って風呂場に行った気がする
俺がそれほど気にも留めなかったのは、見える範囲にこぼした形跡がなかったからだ
いや待て。
あいつ、タオルを両手で抱えてたような・・・
洗面所を出てリビングに向かい、部屋を見渡してみる
いったい何処にこぼしたんだ?
部屋を歩いてみる・・・あ。
普段釣り道具やダイビング用具を収納している部屋から、かすかに甘い、生ゴミの匂いがする
ドアを開けると、部屋一面に敷かれた赤黒く染まったタオル
蓋の開いたまま1センチほど残った赤ワインのボトルが、作業用テーブルに立てられたままだ
「あっ臭っさ!!!」
靴下を脱ぎ、足の踏み場に注意しながら壁を伝って窓を全開にする
そのあと、敷かれていたタオル6枚を回収すると
元々オレンジ色のカーペットが、広範囲にわたり赤黒く染まっている
アイツなんでこの部屋に入ったんだ・・・?
てか臭っさ!!(;´Д`)
なにが"ちょっと"こぼして・・・って、あぁっ?!
床に置いていたビクモン(沖縄の、伝説のハンバーガーショップ第一号)の未使用Tシャツ・・・
ハンバーガーを持って微笑む、インディアンの男の子のイラストが、どす黒い血を吐いていた
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