第1156話 おしゃべりさん

ウチのエリア担当のヤマト運輸の兄ちゃんは、近所のバーでも数回遭ったことがあり


俺のプライベートも、何かと御存知だ


先日、とあるダイビングインストラクターの女性と


ようやく互いの休日が合ったので、以前から約束していた魚の捌き方を教えることになった


捌く過程で血や鱗が飛ぶのでエプロンを掛けてもらっている


彼女に教えながら、その隣で圧力鍋を使って牛スジを煮込んでいた


ピンポーン


マンション玄関に誰か来たようだ


ちょうど俺は、圧力鍋の圧を抜いている最中だったので


「ごめん、ちょっと出てくれへん?」手の空いていた彼女にお願いする


しょっちゅう飲みに来て勝手知ったる部屋だ


「はーい」彼女は台所横のインターホンの拡声ボタンを押す


「Amazonからお荷物です~」


あれ?女性の声?


Amazonだったらいつものあのヤマトの兄ちゃんなんだが・・・


彼女がオートロックを解除する


数分後、玄関のブザーが鳴る


彼女がそのまま荷物を受け取りに行く


「お世話様~」


そう言って、Amazonの箱を抱えて彼女が戻ってきた


「これテーブル置いとくねー」


「ありがと。今来たのヤマトの人?」


「うん、私くらいの年の女の人だったよ」


あ、やはり女性だったか。


それから数日後


今度は近所のバーの兄ちゃんが、俺が釣った魚を受け取りにきていた


兄ちゃんはキッチンで、自分が必要な量だけ魚を捌いている


俺はベランダで、カツオの柵をタタキにするためバーナーで炙っていた


と、またピンポーンと鳴ったようだ


しかし俺が外にいるので兄ちゃんが対応してくれた


炙り終わり、部屋に入ると


「Amazon来てましたよ」と兄ちゃんがテーブルを指差す


「おっ、すまんすまん」


2回続けて他人に荷物を受け取らせるってのも珍しいな


それからまた、数日して


ピンポーンとエントランスに来客


見るといつものヤマトの兄ちゃんだ


「Amazonさんからお荷物ですー」


ロック解除し、上がってきてもらう


玄関扉を開ける


「あれ?Tさん居てらっしゃるじゃないですか?」


「そら居てるやんか。なんでよ?」


聞けば兄ちゃん、所用で10日ほど休んでいたらしく


その間、別の地区担当の女の子が代わりに配達してくれていたらしい


その子からの引き継ぎの際、俺の部屋からエプロン姿の女の子が出てきたと聞き


おっ、Tさん遂に再婚?と思っていたら


その次は若い男性が出てきて荷物を受けとったと聞いて


"そういえばTさん近い将来、家売ってアフリカ移住したいって言ってたなぁ・・・"


「だからお知り合いの若夫婦にでもマンション売って日本離れたのかな、って」


「俺そんなこと話したっけ?」


「はい。どうしてまたアフリカなんですか?とお伺いしたら」


「サバンナの沈まぬ夕陽を眺めながらウイスキー傾けたいって言うたんやろ?」


「いえ『人類発祥の地・それがアフリカ。ゾウさんキリンさんと共に!』とか仰ってました」


「・・・そんなこと言った?」


「はい、バーでお会いした時に。この前は『俺の活力は◯◯(スーパー)のレジの比嘉さん!』って」


「違う違う新垣さん。比嘉さんは68才。」


「で、その前なんかは」


もういいです

お互い喋りすぎ。

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