第930話 脂肪

33までキックボクシングをやっていた


ライトウェルター(ボクシングだとスーパーライト)というクラスで、常時62.5kgをキープしていたのだが


もともと骨太で減量がキツく、本来は1階級上のウェルターで丁度だったので


試合の度に62.5kgまで減量 → 終われば70kgまで増量 → また減量 → また増量を繰り返し


引退の頃には完全なリバウンド体になっていた


引退してからはひたすらプロテインを摂り、筋トレに励んだ結果、92kgまで増量した


半月でもトレーニングをサボり、酒と◯の生活に溺れようものなら、簡単に100kgを越えてしまう


このように簡単に増減する自分の体が嫌になっていた頃


同じく腹回りの脂肪を気にしていた大先輩(#533)に


いちど脂肪吸引で相談したことがある、というクリニックを紹介してもらい


取り敢えず問診だけでも、と自分の気が変わらないうちに予約し、訪問した


腹回りのCTを撮ったあと、画像を見ながら、50代の先生の問診を受ける


「あのですね・・・」先生が口を開く


「熊がいますでしょ、熊。熊は冬眠する際、食い貯めをして体に脂肪分を蓄えますよね」


「はい」


「あなたの場合それなんですよ。脂肪細胞というものは数が決まってまして。100あるうちの50を取ってしまうと、100には戻らず50のままなのです」


「はあ」


「太るのは、その1個1個の脂肪細胞が膨張するからなのですが、あなたの脂肪は熊の冬眠と同じくらい、重要なものなのです」


「あ、なんだかわかる気がします」


「おわかり戴けます?アスリートのあなたには必要不可欠なものですので、吸引は正直、お勧めできません」


・・・という、良心的なその医者に諭された形で吸引を諦めた



あれから20年経つが


冬場に肥って夏場に減量するという熊スタイルが、今も一年のサイクルである



熊というより、外見くまだまさしだが。

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