第928話 正体

俺の住む部屋は3階にある


最近、夕方18時から21時あたりに、下の階・・・おそらく1階なんだろうけど


「がははははははははは!!」


おばちゃんのバカ笑いが聞こえてくる


林家パー子の笑い方を3倍速したような笑い声


テレビを観ているのか

誰かと会話しているのか


よくそんな大声でバカ笑いできるなぁ・・・というくらいの爆笑が空間に響き渡る


先日、マンションで1番の重鎮・Fさん御夫婦とエントランスでお会いした際に


「このマンション最近、御年配の方って引っ越されてきました?」と聞いてみた


F御夫妻は2階にお住まいだ


「いや?Tくんより年上って私らだけのはずだよ」


「やっぱりそうですよね」


「どうしたの?」


「あっ、いえ大した事ではないのですが」


もしバカ笑いが、まさかのFさんの奥様だったら・・・と思いながらも


「毎晩毎晩、楽しそうな笑い声が聞こえるのですよ」と言う


Fさん「あ~それ、あたしらじゃないなぁ」


奥様「そうですよね、私たち19時には就寝してますから」


「あっ、そうか朝お早いですもんね」


俺が港にむかうAM4時にはもう、起きて海岸沿いを御夫婦でウォーキングされている


「というかTくんが下の階から聞こえるって言うなら、あたしらにはもっと大きく聞こえてるはずだよねぇ?」


「あ、聞こえませんか?」


「いや~全く、気付いたことはないなぁ」


うそぉ~ん・・・


じゃああのバカ笑いはどこから聞こえるのだ?


先日出張中に、上の娘に夕方2時間ほど部屋に居てもらい


バカ笑いの場所を特定しといて、という平和なお願いをしたところ


娘から電話が掛かってきた


「わかったよ笑い声」


「えっ?!やっぱり聞こえたやろ??」


「1人だと怖いから海(孫息子)にも付いてきてもらってるの。で、結論から言うと上の部屋。」


「上?4階?下じゃないの?」


「ううん真上の部屋。何でか分かんないんだけど、どこか直結してない?ってくらい聞こえてきた」


「せやろ!めっちゃデカいやろおばちゃんの声!」


「犬だよ」


「は?」


「犬が吠えてるの。小型犬」


「いやいやいやいや。さすがに父さん、まだ耳は確かですよ」


「犬だって。ねえ?」


「犬~」海の同調する声が聞こえる


「いやいやいや・・・おばちゃんのバカ笑いやって!」


「『キャンキャンキャンキャン』だよ笑」


出張から戻り確認したところ、ウチの上階ではペットなど飼われていなかった


その数日後の、朝。


ランニングに向かおうとマンションを出たところ


「ぐおおお~んんんっっっ・・・」


前触れもなく、頭上を戦闘機が飛び去る


えっこんな朝から演習?


米軍基地が近いので戦闘機が飛び交うのは日常だが、この時間は協定違反じゃないのか?


「ぐおおお~んんんっっっ・・・」


えっ?何処飛んでるの?全く見えん・・・ステルス機??


「きーっ、きーっ、きーっ。きーっ」


今度は間近でシャッターの開く音・・・何処だ?


「ぐおおお~んんんっっっ・・・」


あ!そういうこと?


周囲の建物を見渡す


この近くで窓の開いている家・・・あっ!あれか?!


俺の背後にある戸建て2階のサッシの奥、カゴの中で黒い物体がちょんちょん動いているのが見える


あいつだわ・・・


「きーっ、きーっ、きーっ。がはははははははは。オゥイェス・・・オゥイェス・・・」


最後のはヤバいだろ九官鳥。


部屋からは聞こえなかった低音パートで、3フレーズに一回、喘いでいた

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