第777話 そっちじゃない

今の事務所に移る前の事務所のビル


1階扉がセコムのセキュリティシステムになっていたのだが


夜間は暗証番号入力のみを生かし、セコムへの通報は解除していた


そんな12月半ば。


沖縄といっても冬場は13度くらいまで下がる。


なおかつ、前の事務所の入るビルは海に面していたので、沖からの寒風が吹きまくり、クソ寒いったらありゃしない


終業後、事務所を出て近所の居酒屋に赴き、その後これも近場のスナックで痛飲し


家まで戻る気力も失せ、フラフラと千鳥足でビルまで戻ってきた


ビルの1階は普段、シャッターが降りているのだが


俺は知らなかったが、翌朝に粗ゴミ回収があったのと、ウチの連中が一斉に戻ってきて、年末も近いし大片付けをしたのだろう


大掃除並みに山積みの廃棄物が、ガレージに置かれていた


このためシャッターを閉めることが出来ず、上がったままになっていたのだ


そこに戻ってきた。


うっわ何これ??


皆がゴミを出す前に事務所を出たものだから、状況を把握できない


ただでさえ酔って働かない頭で、歩道にまで溢れているゴミの山を呆然と眺めていたが、扉は奥だ


仕方がないのでゴミの山に登り、奥へと進む


ゴミの斜面で変な体勢のまま、扉横の四角いカバーを開ける


そこに暗証番号キーがあるのだ


そしてそこに、全9桁の数字を入力しなければならない


正しければ「ピッ」と音がして、キュイーンと開錠されるのだが


1回目。「ピピピッ」


番号を間違えたようだ


くそっ


半分閉じた目蓋を精一杯開きながら、再度暗証番号を押す


2回目。「ピピピッ」


また間違えた・・・


何でや、記憶違いか?


フラフラ状態であれこれ思考を巡らせる


これで間違いないやろ・・・


3回目の入力を済ませ、ENTERを押す


「ピピピッ」に続けて


「3回連続で正しい番号ではなかった為、次の入力は10分後となります」


アナウンスが流れる


10分て何?!


さぶいのよ・・・

眠たいのよ・・・


ゴミ山にへたり込む


真っ暗なガレージで、黄緑に光る文字盤に手を掛けたまま10分待つ。


翌朝。


イシくん (ウチの小さな営業マン)はAM6時半にビルの前に着いた


すると隣のビルの入口に人が集(たか)っている


ランニング途中の男性まで混じっているようだ


何かあったのか?

人だかりの後ろから奥を覗いてみる


ウチのビルと兄弟ビルの、ガレージに積まれたゴミ山のその先


あっ!と声をあげる


うつ伏せでゴミ山に顔を埋め、番号キーに右手を掛けたまま寝落ちした俺がいた

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