第775話 早とちり

JR博多駅の筑紫口側に、安~い部屋を借りていたことがある


那覇から福岡入りしたは良いが、新幹線はタイムアウト・・・という時に


いちいちホテルに泊まるのもなぁと思い、借りたのだが


結局は、いつも新幹線や飛行機に間に合うよう往き来していたので


ニーズ無く3ヶ月で解約してしまったが、その間10日も使っていない


そんな「使わずの間」の初回のガス代と電気代の日割り料金を、最寄りのローソンで支払った


他に買うものも無かったので、公共料金のみの支払いになったのだが


電気・ガス2枚の支払い票を受け取ったレジの女の子、ろくに金額も確認せず


バーコードリーダーでピッと読み込み、「ご確認くださーい」と言うので


見ると、俺の側に表示された2件の支払い合計額は、併せて700円くらいだった


まあ、初回だしほぼ無人なので安いのは分かっていたが。


「ご確認くださーい」と言った後、初めて自分側でも金額を確認したんだろう、


女の子が思わず「安かっ?!」とつぶやき


慌てて「あ、すみません・・・」と、耳を真っ赤にして俺に謝ってきた


まあ、そんな10日も使わなかった部屋だったが


その部屋で初めて泊まることになった夜


シャワーを浴びていると、どうも至近距離から女の子の声が聞こえた気がする


一旦シャワーを止め、風呂場で聞き耳を立ててみたが、何も聞こえない


「あれ?気のせいか・・・」


シャワーの続きを浴びる


・・・それから12日空いて、2回目の宿泊


PM10時頃に部屋を訪れた


特にやることも無かったので、すぐ風呂に入ることにする


シャワーを浴び始めて程なく、間近でキャッキャ騒ぐ女の子の声が聞こえた


うわ、また?

これ空耳やないぞ?!


即、シャワーを止めて耳を澄ませる


・・・と、浴室の中で女の子の笑い声が響いた


それも1人ではない、複数の女の子が何か言ってる


どういうことだ?

浴室のドアを開けてみる


いくら博多駅に近いからと言っても窓は締め切っているし


街の喧騒は聞こえてくるけれども、車の音が中心で、人の声までは響いてこない


やっぱり浴室か?

再度、ドアを閉めてみる


数分して、また女の子の笑い声・話し声が聞こえてきた


・・・ちなみに先に断っておくと


すごく楽しそうな生きた人間の声だったので、心霊的な怖さは全く感じていない


あ!

もしや5階の住人?


上を見上げる


するとそこには換気口


あっ、これか・・・


見上げていると、まさにそこからキャッキャと騒ぐ女の子の声が聞こえてきた


そこで考えてみた


この部屋は4階だが、確かマンションの1・2階にはイタリアンレストランが入っていたな・・・


この声は、レストランの換気口に近い席の、客の会話が漏れてきているのではないのか?


その後も素っ裸のまま腕組みをして、換気口から聞こえる「声」を分析してみた


何を言ってるのかハッキリとは判別できないが、ニュアンス的に「かんぱ〜い」とか「おいしい〜」とか、言ってるような気がする


やはりこれは下のレストランの客の声だ


ほぼそれが正解だろう。


女子の笑い声を聞きながらシャワーを浴びるなんざ、なかなか乙じゃないか(変態的な意味ではない)


いやいやどうして、この部屋良いじゃな〜い?なんて思った俺は


短絡的なアホだった


数日後、また部屋で泊まることになり、早速シャワーを浴びに浴室に入ると


いきなり会話が鮮明に聞こえてきた


おれもう、ぐらぐらこいたけんね!!(俺もう、腹が立ったからな!!)


おまえね!しゃーしかったい!!(お前な!うるさいんだよ!!)


オッサンも来るわなぁ・・・

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