第726話 ステルス

昨年の夏場。


右目の視力が落ちているので、通っている眼科があった


その眼科の入る細長いビル


そのビルのエレベーターがとても狭く、大きめの棺桶やないかといつも思う


2人乗るなら向かい合わせねばならん


俺は閉所恐怖症ではないが、もし仮にこのエレベーターが昇降中に止まったとしたら


少なからず不安は憶えるだろう


その日ラストの予約を取っていた俺は、19時過ぎにエレベーターに乗り込んだ


8月の沖縄の日没は、だいたい19時20分


かなり薄暗くなりかけた時間の、狭苦しく明るいエレベーター


3階までの辛抱とはいえ、スピードの遅さに辟易する


いまどきこんなスローなエレベーターがあるのかと笑ってしまうくらいだ


さて


エレベーターに乗り込み、正面を向く


もう辺りは薄暗いというのに、鳴き足りないクマゼミがシャーシャー鳴いている


ジジッ!ジッジッ!


飛び交う音も聞こえる


3階のボタンを押す


扉がゆっくり閉まッッッジジッジジジジジジジジ~!!


セミ飛び込んできた(,,゚Д゚)


ジジジジジッ!バン!ジジッ!バン!ジジジジジジジッ!バンバン!!ジジジジジジジジジジジッバンバンバン!!


狭いエレベーターの中を飛び回り、四方の壁にぶつかりまくる


跳弾((((;゜Д゜)))))))


こわいこわい!!

不気味過ぎる~!!

止めてええぇぇぇ!!!


・・・と、ピタッと音が止んだ


え?

どこ?

どこ行った??


サッと周囲を見る。いない。

天井?いない。

床?・・・いない!


まさか俺に付いてる??(,,゜Д゜)


正面にはいないぞ??

後ろか?!


狭いエレベーターの中で体をぐるんぐるん回す


えっ?

おらんぞ?!


まさか頭?!

ゆっくり撫でてみる


付いてない・・・

セミ消えた・・・


エレベーターが3階に付き、扉が開く


すかさず降りる


エレベーターを振り返るがセミは見当たらない


あらためて体を揺すってみたが飛び去る気配もない


どういう事だ・・・

あ!もしや踏んだ?!


慌てて交互に靴裏を見てみる

いや、踏んでいない


えええ〜・・・

気持ち悪いがもう、知らん!!


降りてすぐの眼科の扉を開け、中に入る


「こんばんはー」


受付の女性に挨拶しながら靴を脱ぐ


スリッパに履き替ッッッッジジッジジジジジジジジ!!ジジジジジッ!バン!ジジッ!バン!バン!ジジジジジジジッ!バンバン!!ジジジジジジジジジジジッバンバンバン!!


阿鼻叫喚の受付


ニンジャか・・・

あ、バルタン星人って宇宙忍者・・・

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