第702話 決意

例年12月28日~1月4日は、数名の同業仲間達と海上で年越しをする


釣りをして、離島に宿泊して、また釣りをして、船中泊して・・・といった具合


元旦には、海の神様に酒を奉献し


新年の豊漁と航行の安全を祈願するのだ


持ち回りで船を出すのだが、昨年末の俺は「乗組員」側だった


仲間内は気ままなシングルの6名で、年齢もバラバラ


歳の順でいうと俺は上から2番目だ


メンバーだった木原くんという42歳の漁師https://kakuyomu.jp/works/16816927860625905616/episodes/16816927862021615438 が10月に結婚して参加しないため


今年は5名で寂しいなぁ~なんて話をしていた


さて、同じく10月の終わりに、常連釣り客のN社長から電話が掛かってきた


要件は、年末年始の釣り仲間に入れてくれないか、とのこと


遠征釣りで自身のマグロのレコードを更新したい、とおっしゃる


この社長、ぶっちゃけ釣りは下手。回数はこなしているがセンスがない。


で、御自身のキハダマグロの最高が45キロで、更に大物を釣って自慢したいそうだ


「構いませんが、年末年始はマグロ厳しいですよ?」


「いや、構わんよ」


実は45キロを上げた時、実際に釣れたのは社長に同行していた27歳の若い社員だった


マグロはぐるぐる旋回するため、1人掛かれば周りは急いで仕掛けを回収するのだが


この時、社長はモタモタしていて、若手社員の掛けた釣り糸に絡んだ


それを都合よく自分も釣れたものと思い込み、リールを巻くと若者の仕掛けと絡んでいて


社長は「俺のに掛かった!俺のほうに掛かってる!」大人気なく主張する


明らかに若者の針にフックしていたのだが、どのみちどちらかのラインを切らねばならない


若者は一か八か、自分のラインを切るよう俺に言ってきた


うまくラインが絡んだのか、マグロは奇跡的に社長のラインに移っても解けず付いたままで


さも社長が釣り上げたかのように、花を持たせることができた


この社長、64歳だが、47の時にできた17歳の息子さんがいて


猫可愛がりなのかと思いきや


息子さんが小学校低学年の頃、休みにマリオカートの勝負をしたそうだが全戦圧勝。


毎日疲れているのに、遊んで遊んでとせがまれたくないから圧勝した・・・のではなく、勝ちたいから勝ったらしい


今じゃ息子さんとは、まともに口も利かないような関係だそうだ


俺にとってはお客様だから、何処でもガイドさせて戴くが


人間としては典型的な自己中心派、正直、仲間になるのは無理なタイプの方だ


まあそれでも真っ当に会社経営されているのだから、外野がとやかく言うことではないが。


で、今回、社長と息子さんと、例のお付きの若い社員との3人で参加したいとのこと


マグロを期待されないなら我々は構いませんよと返答し、年末年始は8人旅となった


12月に入り、そろそろ社長に最終確認しようかと思いだしたころ


例の若い社員から電話が掛かってきた


11月半ば、肝臓癌の末期だった社長が亡くなられたと言う


「えっ?!・・・御病気だったこと、全く存じ上げませんでした」


「はい・・・周りには伏せておりましたので」


「じゃあ、その・・・後は奥様か息子さんがお継ぎになったのですか?」


「いえ、私です」


「えっ?!社長になられたの??」


「はい・・・お前が1番、俺の良いところも悪いところも見てきただろ、と」


「あの・・・ごめんなさいこんな話、周りの皆さんは何も仰らなかったのですか?その・・・息子さんが二代目ではないことに・・・」


「はい。それも用意周到に社長が計画されておりまして」


ほう・・・あの社長が・・・意外だった


「先代はこの年末年始をモチベーションにして、まだ自分は持つ、と思って予約されたのでしょうが、叶わなかったということで・・・」


「そうでしたか・・・では、キャンセル・・・」


「いえ。予定通りお伺いしても宜しいですか、息子さんと2人で」


「それは、構いませんが」


「今回、先代が息子さんと私を連れて行こうとしたのには、何かあるんだろうなあ、なんて思いまして」


「ああ・・・そうかも知れませんね」


「それに、私自身が、何か大きなものに誓いを立てないと不安なのです」


「大きな?・・・ああ、海!」


「はい」


「いや、社長。その意気や良し。わかりました、是非お越しください。我々と一緒に、大きなものに誓いを立てましょう!」



「・・・そんなことがあってな。」


過日、ウチのスタッフ3名を連れて神戸で飲んだ時、その話を披露した


「それに引き換えお前らってさぁ、なんか緩いよなぁ」


「えっ、我々ちゃんとやってますよ!」U部長が反論する


「そりゃ仕事は頑張ってくれてると思うよ。じゃなくて俺に対する態度っちゅうか、舐めとるっちゅうか」


U「そんなことないですよ!!」


「でな、ちょっと考えたんやけどな。これから俺のことを『ポセイドン様』と呼びなさい」


谷「はぁぁ?ついに海の神っすか笑」


「フルで呼ぶの恥ずかしかったら『P様』でも良えで」


大場「あぁ~自主規制ですもんねぇ存在自体が・・・」


前話の大ママ含め、全員で大爆笑しやがった

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