第357話 WEB会議

昨年8月。


所属している漁協主催で、台風関連の臨時WEB会議を開催することになった


ちょうど神戸〜大阪の客先訪問中だった俺には好都合だ


連絡が届いたのがもう18時だったので、とりあえず参加できるメンバーだけでやろう、という話になる


俺はちょうどホテルの部屋にいたので、持参のiPadを開く


ちなみに我々はZOOMを使用している


緊急招集であったが、それでも15人、会議に入ってきた


その半数以上が自宅からの参加のようだ


ほぼ顔見知りのメンバーだから、場所がどこでも気にはならない


さて、19時から会議が始まったのだが、木原くんという中堅漁師(42)が、ギリギリの18時58分に画面に飛び込んできた


「木原!お前それ、風呂上がりだろ!」


誰かが叫んだので、見ると木原くんは、濡れた頭髪をブラシで後ろに流して、やけにスッキリした顔でニコニコしている


全員爆笑


「お前!缶ビール飲みながら参加するんじゃないぞ!」


木原くんはニコニコ無言で頷く


さて、会議が始まって15分くらい経ち、たまたま場が静かになったタイミングで


「ゆうく〜ん♡」


甘ったるい若い女性の声が入ってきた


「な、なに?」

「今の誰だよ?!」


全員がザワザワする中、木原くんだけが慌てて画面左手に向き、口に指を当てて「シーッ!」とやっている


「こら、木原!おまえ女連れか!!」

「だから風呂上がりだったのか笑」


木原くんは無言でブンブン、画面に手を振り「違います!!」とやっている


「まじめにやれ〜!」

「てかお前、なまえ『ゆう君』だったか??(発言者・俺)」


ここでまた爆笑


グダグダな会議になってしまった


それからまた5分ほど経過したのだが、木原くんの映るカメラに突然、何かがサッと映り込む


「なんだ今の?ゴキブリ?」

「いや、黒い・・・尻尾か?」


風呂上がりの木原くんが登場してからというもの、全く締まりの無くなっていたWEB会議は、もう先ほどから皆が好き勝手に話し放題だ


「木原!お前その部屋に猫いるだろ!」


木原くんが、また無言で画面にブンブン手を振り否定した直後


ガガガッ!と音がして、木原くんの画面が突然真っ暗になった


「あれ?」

「おい、木原〜?」


数秒後、またガガッと音がして、カメラ位置を修正するドアップの木原くんが映る


「木原、どうした?!」


「いや、あの・・・」何か言いかけながら、大きなものを抱えて定位置まで戻る木原くんの背中が映る


そして、元々座っていた場所で振り返った木原くんが抱えるものを見て全員驚愕


「うわわ!」


「何じゃそれは?!」


「すみません、ゆうくんです〜」


「ゆ、ゆうくん?トカゲ?!」


「はい〜、サバ・・・・です〜」


「は?サンタナモンタナ?」


「『サバンナモニター』です〜」


聞けばオオトカゲの一類で、今現在96cmあるそうだ


会議中、こいつがウロウロしていてカメラに当たったらしい


台風対策の緊急会議であったが、我々が得た主な情報は


木原くんのペット情報と彼女事情だった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る