第639話 アドリブな件

昨年6月


谷やん(脳筋社員1号)と奥さんがいよいよ、それぞれ部屋を出て、奥さんの実家で一緒に住むことになり


その引っ越しやら何やらを、奥さんの部屋に数名で手伝いに行った


雑談の中で奥さんが「最近やたらセールスの電話が多くて困るのです、まあもう出るからいいのですけど」と仰る


その後、引っ越し荷物をバンに載せたり掃除したりしながら1時間ほど経ったころに部屋の電話が鳴った


「あ、俺が出るわ」


台所を片付けていた奥さんを制し、谷やんが電話に出る


少し話していた谷やん、ニヤニヤ笑いながら我々に向かって親指を立てる


「どうやらまさにセールス電話みたいやで」俺は奥さんを含めた全員に言う


谷やんがスピーカーをオンにした


『お休みの日に申し訳ございません、奥様いらっしゃいますでしょうか』


「いえ、おりませんが」


『あ、旦那様でいらっしゃいますか?』


「息子ですが」


『あっ失礼しました、息子様でいらっしゃいましたか、お母様はおられますか』


「母は今、隣におりますが」


『◯◯と申しますが、お電話よろしいでしょうか』


「おかん!◯◯から電話やで!」


「何の用や!」←俺


「何の用やと言うてますが」


『あ、申し訳ございません、日頃のお肌のお手入れに、大変お得な御提案がございまして』


「お得な話があるんやて!」


「どれだけお得なんや!」


「どれだけ得なのか聞いてますが」


『それはもう、大変お得になっております。如何でしょうか、お忙しいですかお母様?』


「オカン電話出れるか?」


「いまテレビ見とるやんか、15分くらい待ったれや」


「テレビ見てるから15分待ってくれと言うてますが」


『あ、では後ほど掛け直しましょうか20分後くらい・・・◯時◯分頃、如何でしょうか?』


「◯時◯分に掛け直す言うとるで、どうするんや?」


「次の番組始まってまうわ!今、待たれへんのか?」


「今、待てんのかと言うてますが」


『あっ、はあ・・・では、また夕方にでも掛けなおします』


「なんや切るんかいな?お得な話なんやろ?タイムイズマネーちゃうん?まあ待っときぃな」


「えっ?あっ、もしもし?もしもーし・・・」


通話のまま放置すること2分


「・・・まだおる?」←谷


「あっもしもし?はい、お待ちしております」


「何を売ろうとしとるのか教えてや。伝えるわ」


『あっ・・・はあ、あの~化粧水なのですが、男性の方にはなかなか、さて、お分かりいただけるかどうか』


「いくらすんの」


『お値段ですか?種類は様々御座いまして、それをセットで格安での御提供になりまして』


「そのセットで幾らすんの?」


『あっ、はい、これは、なかなかあの、現物を見ていただかないと分かりにくいかも知れませんが』


「幾らすんの?」


『◯◯と、◯◯を2本、そこに◯◯をお付けして9,800円での御提供に』


「たかい!」


『えっ・・・あの』


「たかい!2,000円ぐらいの話か思うたわ」


『いえ、あの』


「そんなんオカンに言うたらアンタ殺されまっせ?アコギな商売しやがって~言うて。それに現物見な分からんもんを、どないして電話でお得感伝えるのん?アンタそんなん、オカンが聞・・・」


プーッ、プーッ、プーッ


「切れたわ」


「切れたな」


「それ、ママなんだよね笑」


オカン役の俺に笑い転げる小6(現在は中1)の娘さんの横で、奥さんがブンブン手を振って否定していた

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