第631話 見栄っ張り
琉球古武術には様々な形が存在する
アジア・東南アジア圏の様々な武術が流れてきて独自に進化し
ウェーク術(舟を漕ぐオールが由来の形)
ヌンティー術(漁師が使う銛が由来の形)
ティンベー術(盾を使った槍の形)
スルジン術(鎖鎌みたいなものの形)などなど
形や流派は数十種以上、あるそうだ
入社4年目の金城(きんじょう)くん(28)
彼は面接時、落ち着いた風貌と沖縄の歴史への造詣深さで、即採用を決めた大院卒男子だ
完全に谷やん(脳筋社員1号)の対極・・・アイツ、すぐ仕事で追い抜かれるんじゃないのか?
そんな金城くんを初めてオネーチャンの店に連れて行った時
隣に座った女の子に何やらスマホの画面を見せ「わー凄い~!」と持て囃されている
「なにーなにー?」
隣の女子も覗き込んで「わー格好良い~!!」と抱きつかれている
「ん?何が凄いの?」
離れた席から声を掛けると、彼は
「あっいや、何でもないです」
女の子に取られていたスマホを慌てて取り返し
もう騒がないでください、みたいな空気を醸し出したので、俺もそれ以上突っ込まないでおいた
それから1年後
谷やん主催の合コンに、お財布係として参加した際、何やら金城くんの周りで女子が盛り上がっている
「わー格好良いー!」
「見せて見せてー!」
「すご~い!えっ前からやってるんですかぁ〜?!」
ん?
なんか前にみたような光景・・・
すると、金城くんの背後からソーッと眺めていた谷やんが「えっ?お前マジ?それ?!」と驚いている
「あっ!谷さん?!あのっ!これはっ・・・」
後ろを振り向いた金城くんが慌ててスマホを閉じる
どうやら彼のスマホには
刀や槍、三節棍、ヌンチャクといった武具を構えた、凛々しい金城くん画像が大量に保存されていて
達観した武術師範のような、鷹の目のような金城くんがこちらに睨みを利かせている、宣材写真のような画像ばかりだったらしい
見せられた側は「この人きっとスゴ腕の武術家なんだわ!!」と思ったことだろう(という谷やんの談)
実際は、大学の歴史研究サークル時代に訪問した先々の道場で、たまたま武具を持たせてもらった時の画像だったらしい
初めの頃「落ち着いて真面目だし、谷やんとは違うな・・・」と感心した金城くんだったが
俺から借りた車の横でピースする画像を女の子に見せ
「ふっ、マイカー♡」
などと言い触らしていた頃の谷やんと、そう変わらなかった。
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