第632話 勘違い

広島で宿泊するホテルに向かう途中で、銀行のATMに立ち寄る


店内に入ろうとする俺の傍をすり抜けるようにして、56〜7歳くらいのサラリーマン男性が


開いた通帳を見ながら小走りで入って行く


入った左手にはATMが計5台


俺はATMの待機の列に並んだが、その開いた通帳を持った男性は


真ん中のATMで作業しかけていたOLの女性に、頭を下げながら何やら話している


その女性は自分の作業を止め、男性に場を譲る


男性がATM横の受話器を取り、何やら話している内容が、部分部分、漏れ聞こえてくる


要するに先ほど真ん中のATMから振込みをしたが、全く記帳されていないぞという問い合わせのようだ


後ろに下がっていたOLの女性は、空いた左隣のATMに周囲から「どうぞ」と促されたので


すみません、と頭を下げながら作業を続けることができた


ちなみに俺は待機の3番目


俺の後ろには更に5人、並んでいる


状況を説明したあと、受話器を耳に当てたまま1分ほど放置されている男性が後ろを振り向く


ずらっと並んでいる待機組


"うわ、俺のせいでいっぱい待たせてる・・・"


心苦しかったのだろうか、受話器に向かい


「いつまで待たすんじゃ!早う来んかいや!!」と怒鳴り始めた


いやいや、気持ちは分かるが・・・


場が殺伐となる中、他のATMは順調に空いていく


俺は男性の左隣のATM、先程のOLさんの後に順番が廻ってきた


それと同時ぐらいに係の女性が、ようやく男性の元にやってくる


「申し訳ございません、遅くなりました」


「お、おう・・・これに記帳されんのよ」


「すみません御通帳確認させて頂きます・・・読み上げても宜しいですか?では失礼します。『◯月◯日・2万円・お振込み』履歴が御記帳されておりますが、このほかに御利用がござい・・・」


係の女性がそこまで言った瞬間


「かして」


女性に渡していた通帳を強引に取り返し、開かれたページに目を落とした瞬間、男性が


シュパパッ!!!!


まるで「あの人!あの人です痴漢!!」と指差されたくらいの慌てぶりで走り去って行った

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