第524話 タクシーにて
まだ2月の大阪、22時。
「新大阪駅までお願いします」
「あ、はい~」
タクシーが発進する
「・・・今からどちらまで?」
「広島です」
「満タンですよ?」
「は?」
「今のは営業トークです」
(・・・は?)
「かなり飲まれました?」
「まあ・・・」
「去年の今頃ですかね、もう0時回ってたんですけどね、どうしても今日中に帰らなきゃいけないってお客さんがおられましてね」
「・・・」
「すみません窓ちょっと開けてますけど寒いですか?」
「いや大丈夫です」
「下関まで行ってくれって。そのお客さんが」
「・・・」
「私も断る理由がありませんからねぇー、行きましたよ」
「・・・」
「なのでそれからはこの時期この時間、満タンにしてるんですよーっていう、営業トークなんですけど」
「・・・」
「タクシーはLPガスなの御存知ですよね?ところがですよ、LPガス入れられるスタンドって全国で1,500しか無いらしいんですよねー」
「・・・」
「ガソリンスタンドは3万店くらいあるのにですよ?まあだから下手に遠出しても不安は不安なんですけどねー」
「・・・」
「どっちが寒いですか?」
「・・・え?」
「広島と大阪。大阪かなぁ?」
「・・・」
「私、暑くても寒くても中でも外でも何処でも平気なんですよ。体質なんかなぁ」
「・・・」
「だからホント言ってくだされば何処でも行きますよ?という営業トークですけど、まあもう新大阪着きますけどねー」
「・・・」
「お客さんは普段から」
「ちょっ、ちょっと運転手さん。言うていい?」
「あ、はい?」
「いま運転手さんのテンションと俺のテンションには凄い差があるわけよ。言うたら山頂と海底くらい」
「あっ・・・喋り過ぎましたか?」
「俺飲んでるし。眠たいし。疲れとるわけですわ」
「あっ、すみません・・・」
「あと俺は新大阪駅向かっとるわけやん?新幹線乗るやん?広島までタクシー行ってくれって、言うわけないやん?」
「まあ・・・」
「もっと言おうか?たぶん歳近いやろうからドリフ大爆笑とか知ってはる思うけどさ、言うなれば運転手さんは『もしものコーナー』の人やわ」
「・・・もしも、やたらと長距離を勧める運転手がいたら?とかですか?」
「それ!まさにそれ!なんや自覚あるやん笑」
「これってオチはどんな感じなんでしょうね」
「オチ?ん~たとえば『ちょっと話が噛み合わなかったからもう一回乗せたところからやり直しましょう!』とか運転手さんに言われてUターンしてるうちに新幹線に間に合わんようなって仕方なく『運転手さん、もう広島まで行って!』ってなって『ダメだこりゃ!』で終わるやつ?」
「完璧だ!なんかお客さん、面白い人やわぁー」
疲れてるんだってば・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます