第504話 クリフハンガー

そのむかし、神戸ポートピアランドという遊園地 (2006年閉鎖)に


クリフハンガーという横バンジーのアトラクションがあった


体をロープでくくりつけられ、時速110キロで地上30mの高さから、振り子のようにブンブンとスイングするというもの


初めて見たときは、園内を歩いてると頭上に「シュバッ」という気配を感じ、見上げると人が凄まじい勢いで飛んで行ったので驚いた


こわ・・・怖すぎる・・・


高いところや飛行機が超苦手な俺には、あんなものを飛ぶ奴の気が知れなかった


今から22年ほど前だったか、男5女5で週末にポートピアランドへ遊びに行った


相変わらずクリフハンガーの周りは見物客で人だかり


ふつうのバンジーは階段で上まで登って飛び降りるが


こちらは地上でロープにくくられたあと、するすると上まで釣りあげられる


そして、落下する気持ちの整理がつけば、自分の腰のあたりに付いているフックを


自分自身で解除することにより、振り子の如く地上へ向け落ちてゆくのだ


(古い記憶なので間違ってたらごめんなさい)


吊り上げられ、フォール


繰り返されるその"飛翔"を皆で眺めていたのだが、そのうち着地の仕方に違いのあることに気が付いた


●スタッフが、小さくなった揺れを止め、普通にロープを外して去っていく者


●揺れを止めると同時に、7~8名のスタッフが飛び出し、その全員に囲まれたまま退場する者


何の違いなのか、その時はわからなかった


そのうちお約束のように仲間の1人が「飛ぼう!」と言いだした


他の男連中も、よっしゃ飛ぶか!となる


俺だけ嫌とは言えんよな・・・意を決して飛ぶことにする


高いところが超苦手であるのは確かなのだが


他人が飛ぶのを何度も眺めているうちに、"意外に平気かも?!"と錯覚してきた


そして仲間が次々に滑空し・・・遂に俺の番がきた


地上の女性陣の目もあるので気を張っていたが


実際吊り上げられると


"辞めときゃよかった・・・"


後悔と恐怖でパニックになってきた


遂に30m付近、うぉぉ・・・


フックを解除するには紐を引っ張るだけだった、と記憶しているが、怖いなんてものじゃない


もちろん下には万が一のことを考えて、巨大マットが敷いてはあるが・・・


俺は自分に言い聞かせた


「これは夢だ 悪い夢は早く終わらせよう この紐を引けば、終わるのだ」


間を置かず、紐を引いた気がする


そこからは地獄・・・硬直した俺が100km超えで地上スレスレまで落ちてゆく


死んだなぁ俺・・・気が遠くなっていく


この"飛翔"があと数分続いていたら、本当に心臓発作を起こしていたかもしれない


やがてスピードが落ち、振り子の揺れも小さくなり、俺の、遠のきかけた意識が戻ってくる


そして、俺は気付いた

ジーンズの内ももが温いことに・・・


あっ、そういうこと・・・なるほど、だからか・・・


俺は7~8名のスタッフに囲まれて退場した


・・・濃紺のジーンズの内股であったため見た目はバレなかったようだ


なんとか一日中「失禁」をごまかし続けた (いや、ばれていたかな)


この日を境に俺は


味わった屈辱を払しょくするため、バンジー行脚の旅に出たのである


よみうりランドの20メートルバンジー


岡山は倉敷の鷲羽山ハイランドのバンジー


群馬のみなかみバンジー(これは死んだ)


マザー牧場のバンジーetc


修行のお陰でバンジージャンプに対する恐怖を完全に克服した


落ちる姿に芸術点が付くとしたら100点満点で飛ぶ自信がある


しかしその頃にはもう、ポートピアランドは閉鎖され


残念ながらクリフハンガーへのリベンジは成らなかった

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