第350話 公衆電話

皆様は最近、公衆電話を使われたことは、あるだろうか?


俺はといえば、数年前に病院内で掛けたのが最後のような気がする


先日、普段立ち寄る薬局から出てきた目の前に2台、電話ボックスがあることに気がついた


俺の中では存在理由すら消えていたな・・・と考えながら、ふと思い出した


もう数年前になるが、谷やん(脳筋1号)と大阪に出張していて


人待ちで、梅田のヨドバシカメラ周辺で佇(たたず)んでいた


「Tさん公衆電話って使います?」谷やんが聞いてきた


「えっ?いや、使わんなあ」


「あそこ、ほら」


と谷やんが指差す歩道脇に電話ボックスがあり、中でスーツ姿の男性が電話している


「ほう、今時スマホ持っとらんのか?あ~あれかな、映画とかでよくある『足が付かんように』みたいな」


「あ、それホンマかもしれませんよ。普通のサラリーマンぽくないっすよ」


「顔が険しいよな。キョロキョロ周り気にしとるし」


「何かの取引とか」


「よく見えんけどあいつ、電話機の上にめっちゃ10円玉積んでないか?」


「あ~確かに。なかなかの速さで投入してますね・・・長距離電話っすかね?」


「怪しいな笑」


「怪しいッすね~。あ、電話終わった」


「出てこんなぁ・・・うつむいて何しとるんや?」


「なんかメモってますね」


その、黒系のスーツを着た、遠目に40代と思しきオールバックの男。


鋭い目付きで時折周囲を気にしながら、メモを折り畳むと電話機に刺した


「えっ、何してんのアイツ」


「マジで受け渡し場所とか、そういうのじゃないんですか」


男は周囲を見渡しながらボックスから出てくると、足早にその場を立ち去った


「谷やん。あれ、見てこいや」


「はぁ?!嫌ですよ!!」


「大丈夫、見張っといたる。なんかあったら出ていく」


「いやいや狙撃されたらどうするんすか!」


「ドラマの見すぎやて。お前も気になるやろ?」


「Tさんが行ったらいいじゃないですか!」


「俺が行ったら"まんま"やないか。お前やったら、ただ電話しに入った奴にしか見えんやろ?」


「えーっマジっすか・・・」


「ほら、早よ行かな誰か入ってまうぞ」


客との待合せまでにまだ15分ほどあるし、暇だった


渋々、谷やんは電話ボックスに向かう


時折後ろを振り向くので、行け、行けと手を振る


何度も辺りを窺いながら谷やんが電話ボックス入った


電話を掛けようとして刺さったメモに気付いた、という体で、さり気なくそれを引き抜く


その場で拡げて読むのかと思ったら、慌てて電話ボックスから出ると俺のところに早足に戻ってきた


「なんで持ってくるねん!」


「だって捕まったら嫌やないですか!」


「ちょっ、ちょっ、移動するぞ」


慌ててヨドバシカメラに入る


というか何で俺まで焦ってるんだろう


エントランス脇の、買い物客が我々を気にしないような位置まで引っ込む


「おっしゃ開いてみ」


八つ折りにされた白い紙を、谷やんが拡げる


そこにはひらがなでこう書かれていた


「これみたひとあほ」

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