第348話 犬以下。

沖縄の、とある離島の中腹にあるカフェ


カフェといっても屋外の庭にテントを組んで


長テーブル置いて、椅子並べたような場所


庭の正面には180度、真っ青の東シナ海が拡がり


それを眼下に一望しながら食事ができる、そんな所だ


そこには、雑種だが割と大型の看板犬がいる


数年前は仔犬も数匹いたが貰われていったのかな?


本当に大人しい犬で、尻尾振って客に擦り寄ることはないけれど


気がつけば足元で寝そべっていたりするので、頭や体を撫でてやる


いわば、働かないホール係ってところだ


ある夏の午後


俺が1人でタコライスを食べていると、欧米系のバックパッカーの男性が1人やってきた


平日の、時間も14時を過ぎていたので、俺の他には3人の女子グループがいるだけだ


海を眺めている俺の、数席離れた右手に彼は座る


メニューを指しながら店員に注文を告げると、両肘ついて海を眺め始めた


チラチラ横を見ていたわけではないが、程なく注文の品がくる


そして店員の背後から、犬もそーっと付いてきていたようだ


「Oh?」彼は自分の足元を見て


犬じゃないか〜びっくりさせるなよ〜という感じで撫で始める


その数十秒後


「Ouch!」叫び声がしたので右を向くと


犬が起き上がり、トッ、トッ、トッと俺のところにやってきて、足元に寝そべった


外人さんはしかめっ面で右手指先を押さえている


"どうかしました?"という手振りをすると


何でもない何でもない、と手を振られたので


頭を撫でながら足元の犬に「どうしたん?」と聞くと「ウ〜」と低く唸る


「お前・・・噛んだの?」と言ったらチラッと俺を見た


こんな大人しい犬に噛まれるとは・・・どこ触られたの?(^_^;)


帰り際にその話を店員さんにすると


「あっ多分、お客様があの子にお裾分けくれたんだと思います」


「えっ?」


「あの子、お客様の料理は絶対に戴かないのです。逆に怒るんですよ強要されると。教えたわけでもないのに」


なんて偉い子!!


それに引きかえ・・・



22時頃、事務所に戻ると谷やん(脳筋社員1号)がイヤホンを付け、自席のPCでYouTubeを観ている


ニヤニヤしながら動画に夢中で、全く俺に気付かない


至近距離1.5mでようやく俺に気づき


「うわっ?!ビックリしたぁー!!」と叫んだあと、慌てて机上の菓子袋を隠す


「お前、なに慌てて・・・あっ?!」


俺は自席に行き、1番深い引き出しを開けてみる


やはり。


俺がマツコの知らない世界を観て取り寄せた、へそくりおやつの水車亭(みずぐるまや)の塩けんぴの大袋を、奴は食べていた


前に、小袋ではあるが全員に配っている。


勝手に俺の引き出しを開けてバレないとでも思ったのだろうか。


「もう食べないかと思って」


犬以下とは・・・

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