第328話 見掛け倒しですとも

急遽、山口の錦帯橋空港から空の便に乗ろうと、岩国まで向うことにした


JR広島駅から山陽本線に乗ったのだが、向かい合わせ4人掛けの席に、大股開いてあからさまに


「俺は一ミリたりとも他人に譲る気はあらへんで!」という坊主頭のオッサンが腕組みして座っている


普段は電車に乗ると立ったままでいるのだが、こういう輩(やから)はどうにも我慢できず・・・というか天誅を喰らわせてやりたくなる性分なので


この日も、そのオッサンの隣の狭~いスペースに、敢えて座ってやる


オッサンは一瞬「なんじゃこいつ!」と思ったのだろうが、すぐに「あ、ヤバい相手かもしれん」と察したようだ


ガーッと開いていた股を閉じ、のべーっとシートに預けていた背も、尻を引いて座りなおす


うんうん、それでよろしい。


俺に対抗してこようものなら、どこまでも陣地獲り合戦を続けてやる気でいたのだが、許してやろう


周囲の乗客の皆さん、これでスッキリしたでしょ?


と、次の瞬間、俺の付けていたマスクの左耳のゴムが切れ、だらんと右耳に垂れ下がった


うっわ・・・


だが慌てた素振りを見せず、「全く・・・」といった感じでマスクを外し、見ると左耳部分の接着が剥がれている


誰にともなく、軽く「お手上げ」のアメリカンなポーズを取ったところ、あからさまに


ドア近辺に立っていた女子高生3人組にクスクスと笑われてしまった


乗ってきた、いかついスーツ姿のハゲたオッサンが

    ↓

大股広げて座っている、これまたハゲたオッサンの隣に座り

    ↓

ハゲ同士が制空権を争ったのち

    ↓

勝った方のマスク切れた


傍から見ればちょっとしたコントみたいになったのだろう


どうやら隣のオッサンも反対向いて笑っている


これは恥ずい・・・


俺は、いかにも観光客の体を装い、途中の宮島口で逃げるように降りた

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