第322話 肘痛の件

谷やんの運転する車に乗っていると「ちょっと聞いてもらえます?」と彼が話し掛けてきた


「俺、右肘が痛いって言ってたじゃないですか」


「ああ、言うとったな。どうなったん?」


「一昨日、整形行ってきたんスけど。『寝違えたとか、激しく転んだとか、打ち付けたとか無いですか』って聞かれて、無いって言ったんスよ」


「うん」


「どんな些細なことでも良いから、ここ10日ほどの間に何か無かったか、って聞かれて」


「また何を言うたの笑」


「オカンが珍しくコメ送ってきたんスよ6日前に。電話で10キロとか言ってたんスけど。それ思い出して、言ったんスよね」


「ほう」


「そしたら先生が『あ、それ持った時にピリッときた?』って聞くから、いや配達されたまま玄関に置いてあるって言ったんスけど」


「・・・ん?持ってないの?」


「持ってないっスよ」


「なんでそれ言ったの?」


「いや、だって、些細なことでもいいって言うから」


「お前それ『実家の母がコメを送ってくれた』だけの話やん」


「まあそうっスけど」


「お前の肘が痛いのと何の関係があるの?」


「いや無いっスけど。どんなことでもいいって言うから」


「・・・先生何て?」


「やさしいお母さんですね~って」


「・・・肘は?」


「なんだったんスかね?もう治ったんスけど」


ちゅうことはキミ


わざわざ整形外科に、家族のほんわかエピソードを披露しに行っただけなんだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る