第320話 Gくん
去る年の1月半ば
名古屋の栄にて、数社合同の異業種・若手研修会を開いた
研修会と銘打ってはいるが、酒の入る懇親会で若手の"本音"を聞きたくて企画したようなもの
九州のイベント会社から参加した、Gくんという28才の男性主任
我々とも仕事上で絡みがあり、印象としてはクソ真面目な男
その日の研修も、グループディスカッションでは積極的に発言し、まとめ役を買って出ていた
夜の懇親会では苦手だというカラオケも歌い、彼なりに盛り上げた結果・・・いつもより早く酔っ払いモードに変身
最後に皆で、有名な台湾ラーメンの店に行き、解散したのが午前1時半過ぎ
宿泊は数人ずつ3つのホテルに分かれて取っていた
ラーメン屋を出てからはバラバラにタクシーに乗り込み、解散したのだが
タクシーに乗り込む頃には完全泥酔状態であったGは、関東のグループ3名に両脇を抱えられながら、ホテルへと帰っていった
ホテルに戻った4人は、関東組3人がGを抱える形でフロントへ向かったが
「小便してくる」と言って、それまで立ち寝状態だったGがフロント脇のトイレにフラフラっと入っていったので
3人はGの鍵も受け取り、出てくるのを待っていたそうだ
しかし、待てど暮らせどGが出てこないので
「Gさん多分寝てるよ」
「見に行ってみようか?」
そんな会話をしていると、別の客がトイレに入り、数秒後その客が慌てて出てきた
フロントマンに
「ト、トイレで血だらけの男性が倒れてるよ!!」と言う
慌てて3人がトイレに駆け込むと、小便器の前で口の周りを血だらけにしたGが唸っている
「どうしたんですかGさん!!」
「大丈夫ですか!!」
声を掛けると"なんでもない、なんでもない"と手を振るG
そこにフロントマンがやってきて、介抱されているうちに本人が途切れ途切れに話すには
どうやら小便器で用を足しているうちに寝落ちして
前屈みにガクッとなったときに便器に顔をぶつけ、唇が切れ
前歯の一部が欠けたとのことであった
本人が痛さで少し酔いから醒め
「もう大丈夫1人で部屋に戻れる」というので
後はフロントマンにまかせ、3人は部屋へ戻ったそうだ
翌朝はバラバラに解散したらしいが
「Gさんはもうとっくにチェックアウトされた後でした」
そんな一連の騒動を、のちに関東組の若手連中から聞いて大笑いした
・・・それから半月後。
東京で、俺やGを含む研修会参加メンバー7~8名で飲む機会があった
そこでGに
「あ!そういえば聞いたぞ?名古屋で大変だったって?」例の話を振ってみた
「そうなんですよ・・・ホント、皆には迷惑かけちゃって」Gは申し訳なさそうにしている
「Gくん、自分ではどこまで憶えてるん?」
「トイレで立ち寝しちゃって、便器に顔、つっこんだんですよね?」
今ひとつ、本人は記憶が定かでないようだ
ならちょっと、イジってみるか・・・
ちょうど研修会にオブザーバーで出席してもらっていた「E」という社長もいる
「あれ?便器に顔突っ込んだなんて話になってるの?」俺はアドリブを始める
「えっ、どういうことです?」
「どうしようかな・・・言わないでおこうと思ったけど、聞きたい?」
「え、何をですか?何かあったのですか?」
「あの晩のあと、大変だったんだよ・・・なあ?」E社長に振る
さすが我が盟友のE社長、瞬時に俺の意を汲み
「そうだよ。本当に憶えてないの?」と続ける
「えっ?・・・トイレで起こされて・・・血を拭くのにタオル貰って・・・部屋に帰りましたけど?」
徐々に不安になるG
「わかった、もう教えてやる。あのホテルにダビデ像あったの憶えてる?」
「え?」
「フロント脇にあったでしょうが」
「ダビデ像・・・ですか?」
「それも憶えてないのか、相当飲んでたんやな・・・」
「あの、ダビデ像がどうかしたのですか?」
「Gくん、君はあの日タクシー降りたあと、1人で歩けるからってフロントにずんずん歩いていったの、憶えてる?」
「いえ・・・憶えてないです」
「そこから憶えてないのか・・・寝ながら歩いてたら、フロントじゃなくて脇のダビデ像に突っ込んだの」
「・・・・・・」
「歯、欠けたろ?突っ込んだ時にちょうどダビデ像のチ○コにぶつかって、折れちゃったんだよ」
「はあぁ??」
Gは、自分がからかわれていると思ったのか、笑いだす
「いやいやいや~!そんなこと無いですダビデ像なんて無かったです!」
そこでE社長が加わる
「本当に憶えてないんだなお前・・・いいかよく聞けよ、俺たち2人、後日お前の泊まったホテルにまで行って、謝ったんだぞ?」
「またまたぁ~E社長まで~」笑うGだったが
残りの数人が
"本当に憶えてないんだGさん・・・"といった顔で見合わせたため
「嘘でしょ・・・?」
Gも雲行きが怪しくなってきた
俺「言ったって知らないだろうけど・・・なんか地中海の貴重な大理石で造られたものらしくて。オープン記念に名古屋市長から寄贈されたんだってさ、ダビデ」
E「俺ら2人も値段聞くまでは余裕かましてたんだけど、あのダビデ像が1億5千万って聞いて」
「い、いちおくごせんまん・・・ですか?」
明らかに血の気の失せるG
そこまで話を聞いていた若手の2人が「ちょっと、トイレに」と席を立つ
笑いを堪えられないらしい
俺とE社長は話を続ける(全てアドリブ)
俺「Gくん、まだ続きがあるのや。実は悪いことにダビデ像のチ◯コだけ、天然水晶で作られてたらしいのや」
E「先が2センチほど欠けたらしいんだけどさ、そこだけ取り寄せるのに幾らかかるって言われたと思う?」
G「幾らですか・・・」
E「800万だよ」
G「800!!」
深刻な俺たちの顔を見て、ことの重大さがジワジワ押し寄せてくるG
顔面蒼白になっている
数分の沈黙のち
「だけどな」俺は呆然とうなだれるGにむかって言う
「フロントに置いてあるものだから、今回のようなことも想定しているらしくて」
「はい・・・」Gは少し顔をあげる
「高額の物損保険を、市とホテルで折半して掛けてたらしくて。8割程度は金が下りるんじゃないかって」
「8割も?!」
「そう、だから俺らが言われたのは『150万程度の賠償請求はさせていただくかもしれません』ということや」
「Tちゃんと俺(E社長)で75万の折半ということだよ」
「いやそんな!ボクが払います!!」
「ええねん1度引き受けたのや、お前のケツは俺らが拭いたる」
「安心しな、もっと値切らせるし」
「いや、そんな・・・」
「まあ賠償金額もハッキリせんのに、ここでグダグダ言うとっても仕方がないからまた打合せしようや、なっ?」
「そゆこと!はい、この話は終わり!!」
俺らはその後、店を替え飲み続けたのだが、Gだけは落ち込んだままだった
そしてその晩は、ネタばらしすることなく解散した(というかダビデの話をすっかり忘れていた)
・・・翌日午後2時ごろ、Gから電話
「お疲れさん、どうした~?」
「あっTさん今いいですか!ホテルに来てるんですけど!ダビデ像なんか知らないって言われてるんですけど?!」
「ん?ダビデ?」
「ボク泊まったの『ト○スティ』ですよね栄の?!記憶違いでしょうか?!」
「・・・あっ?!もしかして名古屋にいるの?!」
「確かにこのホテルなんだけどなあ?!ダビデ像の存在を秘密にしなきゃいけないほどヤバいんでしょうか??市の寄贈だからかなあ?! ああ~っ!!」
電話の向こうで取り乱すG
俺はもう、お詫びに自分のチ◯コ折ります
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