第166話 純粋な後輩
福岡にクソ真面目な後輩がいる
今でこそ4人の子を持つ立派な親であるが、その後輩、結婚前は大のキャバクラ好きであった
しかし入籍するにあたり、通っていた数件の店に赴き、店の従業員に
「わたくし4月2日を持って入籍することとなりまして、これからは来ることもなくなりますが、今まで大変お世話になりました」と
わざわざ挨拶して廻ったという、なんとも律儀な男である
さて、これはまだ彼が独身の頃の話
ある日、俺が博多入りするので、事前に美味しい水炊きの店を押さえてくれていて、そこで散々舌鼓を打った
たらふく喰い終わり「じゃあ、つぎ行きましょうか」と後輩が言うので
「毎度言うけどキャバには連れて行くなよ、嫌だからな俺は」と釘を刺す
俺はどーも、盛り上がっていても時間が来るとフロアーのお兄ちゃんが割り込んでくる、あのシステムが好きになれないのだ
「そんなこと言わないで付き合ってくださいよ~キャバしか知らないんですから・・・」
後輩があまりにも頼み込むので
わかったよ仕方ないなぁと、彼の案内する店へ移動することになった
店の入っているビルに着くと、正面エレベーター前には無数の花輪、花輪、花輪・・・
2Fから6Fまでに十数件入っている、どの店のナニ子ちゃんだか知らないが、誕生日イベントらしい
エレベーター前が客でごったがえしているので
「もう混んでるし止めようや~」と言ったら「なら、ここから行きましょう」と
後輩は横手にある防火扉を開け、非常階段から行こうとする
「おいおい、何階か知らんけど非常階段はやめようや」
「大丈夫です、2階ですから」
あ、そうなの?と付いていく
登りきった後輩が2階の防火扉を開けて「うわっ」と叫ぶ
覗き込むとそこには、立てかけた巨大花輪の裏側の骨組み
・・・誕生日イベントはこのフロアだったのか
「じゃあ、行きましょうか」花輪の下を四つん這いで潜る後輩
「おいおいおい」止めるのも聞かず進んでいく
仕方がないので俺も屈み、のぞき込むと
巨大花輪の前面にも小型花輪が立てかけてあるようだ
向こう側に出ると、もろエレベーター横なものだから
先に出て膝に付いたホコリをパンパンと叩いている後輩と、四つん這いの俺に向けて
降りてきた客・出迎えの従業員の冷たい視線が刺さる
そんなことにお構いなく後輩は、苦虫を嚙み潰しながらホコリを払う俺を置き去りにし
1人ずかずかと店に入っていく
・・・さて、飲み始めてから1時間近く経った
入店時こそ、そんなだったが、入れ替わり立ち替わり女の子がチェンジしながら、俺も楽しんでいた
後輩は、いつも指名する子が途中からずっと横に付きっきりで、何やら話し込んでいる
(そろそろ時間やな)そう思った俺は、俺に背中を向けて話し込んでいる後輩の背中をポン、と叩く
・・・反応がない
再度ポン、と叩く
「何ですかぁ?!」あからさまに迷惑そうな顔の後輩が振り向く(すでに相当酔っている)
「いや、そろそろ時間やから、帰ろうか」
「大丈夫ですよ延長しますから!!」
「・・・いや、延長ってもう11時過ぎたし」
「ボクが払うからいいじゃないですか~そんなの!!」
「いや、払うとか払わんじゃなくて明日も仕事あるし・・・」
「もう!ボクは今この子を放って行けないんです!色々大変なんですから!!」
(あぁ、また悪いクセが始まった・・・)
後輩は純粋なのだ
母親が体調悪くて・・・
彼氏のDVが酷いの・・・
この類の話をされたら、120%信じてしまうのである
・・・まあ、その純粋さが彼の好かれる人間性ではあるのだが。
結局この日は0時半まで付き合わされた
翌日の昼食時、後輩に
「ところで昨日言ってた大変なことって、何?」と訊いてみた
「ああ、それがですね・・・」
眉をひそめて小声で彼がいうには、後輩ご指名の彼女曰く
"彼と別れた後に、彼の子を妊娠したことが判明し、産むか産まないか悩んでいる"とのこと
不幸の鉄板ネタやないか・・・
「それで?」先を促す
「それでですね、堕ろせば彼氏とのことを完全に吹っ切ることができると言うのですよ」
「ちょっと待て、"だけどお金がない"っていう話?」
「いや、それ以前にですね、"堕ろすという行為は神を冒涜するし、君自身の心と体を壊すんだよ"と言ったのです」
うーん間違ってはいないが、それ以前に君は彼女の話を信じているのか?
「そしたらですね、彼女が"私一人で育てられるわけないじゃん"と言うので」
で?
「ボクが育ててもいいよって、言ったんです」
┐(´д`)┌┐(´д`)┌┐(´д`)┌
「そこからは、"◯◯さんにそんなことお願いできない、やっぱり堕ろします""いやボクが育てるから、君はそのうちボクを好きになってくれればいいよ"の堂々巡りで」
・・・この子につける薬はないのか。
「お前さぁ、騙されてるって1ミリも疑わへんの?」
「そうかもしれませんけど、騙されたのがボクなら、それでいいんです」
誰か・・・この子をメルヘン病院に連れていってくれ
そのとき後輩の携帯が鳴る
「はい・・・はい・・・うん・・・30万?! 払えないな・・・あ、それならいいよ・・・はいはい」
電話を切った後
「ちょうど彼女からでした、堕ろすことに決めたけどお金がないから30万貸してほしいと」
「ほら見てみい!もう台本通りやないか!これで目も覚めたやろ!」と後輩の肩を叩きながら
「で、何が"それならいいよ"なん?」と聞いたら
「15万づつの分割で貸してください、と言うので」
もう好きにしなさい、君
※後に別の女の子から「それは彼女の常套手段よ」と教えられたらしいが、結局彼が払ったのか払ってないのかは知らない
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます