第93話 詐欺メール

二年前の、日本全体がまだ非常事態宣言の真っ只中だった4月


スマホに「そちらは大丈夫ですか?コロナ大変ですね」と、誰だか名乗りもしない、登録もされていないメールが届いた


まあ一発で「コロナ見舞いを装った詐欺メール」だと分かったのだが


この手のやり口はよく理解していたので、暇つぶしに少し、付き合ってみることにした


流れとしては、上記のように「大丈夫ですか?」とメールを送りつけ、どちら様ですか?とこちらから返信が来れば、次はこちらが男か女かを探ってくる


相手が男とわかれば女に、女とわかれば男になって「間違いとはいえこんな偶然ってないですよね!ご縁を感じるので、またメール送っても良いですか?」と返信してくる


で、会話をやり取りするうちにこちらが乗ってきて、“こいつは引っ張れるな” と判断した時点で


何らかの理由でメールが続けられなくなった、今から送るURLが私のSNSだからそっちに入ってほしい、と誘導し


そのURLをクリックさせれば、詐欺グループの第一目的は達成という仕組みだ


俺にきたメールもご多分に漏れず、俺が男か女かを探り、こちらが男とわかったので


「東京在住の、養成所に通うアイドルのタマゴ、さゆみ」と名乗ってきた


「お兄様はお名前何ていうの?」


「俺? 真珠埋太郎。しんじゅ・うめたろう」


「埋太郎さん!素敵な名前♡これからウメさんって呼んでも良い?」


アホか。


まあそんなことで、俺が自称・さゆみにハマるまで(あるいは向こうが諦めるまで)、この誘導メールは続くことになるわけだ


「ウメさんは今、何してるの?私は上手く踊れなかったダンスの動画、撮ってきたのを見ながら反省中♡」


「俺?俺は次に埋める玉をチタンにするかカーボンにするか検討中」


「えっ玉を埋めてどうするの?」


「相手にますます喜んで貰うのや」


「うわぁ凄いね!ウメさんそうやって、いつも人のために考えてあげてるんだね!優しいんだね♡」


アホな会話・・・


俺が詐欺を承知でおちょくっていることを、向こうも当然分かっているだろうから、続けても意味がないと早めに判断したのだろうか


終わりは意外にすぐ、やってきた


初めのメールから3日後。


「ウメさん聞いて!わたしの父が厳格な人で、男の人とメールのやり取りをしてることがバレたの!だからもうすぐこのスマホ、取り上げられるかも知れない!だけどこのままウメさんと終わりたくない!!」


何も始まってないが。


「それはそれはお疲れ様でした」


「ウメさんとこのまま話せなくなるなんてわたし、耐えられない!わたしのSNSのアカウント送るから、そっちにきてほしい!!」


そらきた。


「いえいえ、お疲れ様でした」


「ウメさん!わたしの願いを叶えて!今こそ玉を使って!」


悟空か俺は。

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