第92話 印象

普段の自分は、話好き・人が好きで社交的な男だと思っているのだが


見た目から入った皆様には、全く違う印象を持たれてしまう


自分ではどうにもならない部分なのだが、相当、恐いらしいのだ


声もかなり低いため、恐さに拍車を掛けているようだ


なので初対面の方に俺の内面を御理解戴くまでには、毎回かな〜り時間を要することになる


今回は、そんな話だ。



大阪に宿泊する時はいつも、同じホテルを利用するのだが


ちょっと近所のコンビニへ、となった場合、これも毎回、同じローソンに立ち寄る


ほぼ9割方、レジで対応してくれる男性がいて(店長ではない)、お歳の頃は57〜8


天パーで、ひょろりとした、トンボのような眼鏡をかけた方なのだが


毎回、レジに立つと喋り掛けてきてくれる・・・それも、舌っ足らずな口調の方なので、元々会話好きではない、と思われるのだが。


「今日も暑いですね」

「まだ雨、降り止まないですね」

「さっき入り口近くにまでカラスが来ましてね」


そんな他愛もない内容だが、話し掛けてくれることに悪い気はしない


「ホントですねぇ〜」

「えっ、そうなんですかぁ」


一言二言、そんな会話のやり取りがあってコンビニを去るのだが


毎回1つだけ、気になることがあった


その男性、レジを打ちを始めてから商品を詰め、俺に差し出すまでの一連の作業中


ずっと両手が震えてらっしゃるのだ


それも尋常な震え方ではない


一度など、余りにも震えすぎる右手を、自分の左手でバシッ!と押さえていたくらいだ


大丈夫ですか?と聞くわけにもいかず・・・そういう、御病気なのかなと思ったりもしていた


ある時、いつものようにそのローソンに寄ると、結構な客がレジに並んでいたので(レジは3箇所開放されていたが)


真ん中のレジにいる、いつもの男性の手元をそれとなく見てみた


ところが全く普通。小さな揺らぎもない

客が多いからそれどころではない、という訳でもない


更に言えば、どの客にも必要最小限の会話しかしない


「温めますか」「お箸何膳ですか」そのくらいだ


数分後、商品をカゴに入れた俺が、その男性の前に立つ


「あっお疲れ様です、大阪暑いでしょ」


「ホントですねぇ嫌になりますね」


そんな会話をしながら商品をピッピッ


「袋は要りますか?」


「あ、お願いします」


商品を詰め、俺に差し出してくれる


その間・・・もう、ずっとブルブル震えてらっしゃった


もしや・・・今更だけど、恐がられてるの?!

今まで、緊張をほぐすために、俺に話し掛けてたの?!


沖縄とは違い、大阪や神戸に客先挨拶に訪れる際には寸分の隙も無い黒のスーツ姿なので"そちら様"に見えなくもない


これは反省だ・・・

やはりもう少し、見た目から「隙」をこしらえた方が良いのだろうか


さて


いつものように大阪に寄り、いつものホテルを予約し、飲んだあと部屋に戻る前に、そのローソンに寄った


そのローソンは、積極的にアジア系の従業員を採用されており、例の男性の他は、タイやベトナムなどの男女だ


皆さん流暢な日本語を話されるため、何の違和感もない


ほんと日本の若者は見習うべきだよ・・・


さて、俺が並んだレジはこの日、あの男性ではなく、初見のフィリピンの女性だ


お歳の頃は40代か・・・とても綺麗でふくよかな方だ(ちなみに俺はふくよかな方が大好きだ)


日本語もお上手だ。ずっと日本に住んでらっしゃる方だろうか


「いらっしゃいませー」


その女性にカゴを渡したあと「袋ください。あと、Lチキのコチュジャン」と伝える


「・・・エルノコッチ?」


「Lチキの、コチュジャン」


「エルチキノコ?」


「ちがうちがう、これ」と、ガラスケース下段左に陳列されているものを指差す


「あー、赤ダレ!」


あっこれは俺が悪かったかな・・・

表記は「Lチキ赤だれ(コチュジャン)」となっている


しかしこの些細なやり取りのズレが、彼女のペースを乱したらしい


「タバコ要ったかナ」


「要らない要らない(言ってないし)」


商品をピッピッとやり、367円と出る


そして彼女は俺を見る


・・・ん?


「367円です」


ん?さっきトレーに千円置いたよ?


・・・ない。あれ?


俺側に落ちたのかと足元を見たが無いので、そっちじゃない?とカウンター中の彼女の足元を指差す


「あっ!ごめんなさいあったナ」


彼女は千円を拾い、精算しつつ商品を袋詰めする


で、お釣りを俺に渡そうとして、


「あっ待ってこのコーヒー、レジしてないナ」


そう言って、一旦袋に詰めたカップのコーヒーを出し、ピッとする


うん、確かに367円じゃ安すぎたわ


流れ的にレジを2回したため、2枚のレシートとお釣りを渡された


「ごめんなさいワタシ、いまセーリだからナ・・・」


やめなさい。

そんな情報は要りません。


日本に来て、日本の男性はそう言えば何でも許してくれる、とでも教えられたのかも知れない。


いや、それ以前に俺が恐かったのだろうか・・・

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