第86話 領収書

財布の中身を整理していて、収入印紙の貼られた飲食代の領収書を見ながら、ふと思い出した


もう15年以上前のサラリーマン時代に、客を連れて和倉温泉に行った時の話だ


温泉に入り、宴会も済ませ

俺を含めた7名は、浴衣姿で温泉街を探索していた


目に付いた、良い雰囲気のスナックに、飛び込みで入ってみる


時刻は21時半


店のスタッフは、ママと30代の女性が2名・20歳そこそこの若い女の子が1名


早い時間からの2組が帰ったばかりだそうで、我々7名は貸切状態でスタートすることができた


それからは飲めや歌えやの大騒ぎで、いつの間にかウイスキーボトルも3本空いた


途中、ママが「ちょっと呼ばれたので出掛けてきます」と退出


そのあと30代の女性2人も

「お客さんのいる居酒屋まで迎えに行ってきます」と消え


「まだ余り経験が無くて・・・」と不安がる、若い女の子だけが残る


その時点で既に、飲み始めてから2時間が過ぎていた


まあ田舎だからこんなルーズな経営でも良いのだろうな・・・


それほど気にもせず、更に30分ほど飲んでいたが、0時を廻ったので


「そろそろ帰るから精算してくれる?」と女の子に言う


「あっ・・・ちょっとママに聞いてみます」

女の子は電話を掛ける


「すみません連絡付かないです・・・」


「じゃあ先輩の女の子に聞いてみたら?」


「お姉さん達も繋がらないんです・・・」


そんなユルくていいのか〜?('~`;)


計算は出来るのかと聞くと出来ますと言うので、とりあえず精算してもらう


「57,000になります」


「えっ!安っ!計算間違ってない?」


「はい、大丈夫・・・な筈です」


「そしたら、領収書くれるかな」


「あの、ちゃんと書いた事がないのですが・・・」


「何なら白紙で貰ってもええけど。・・・まあそんな勝手は出来んだろうから、宛名に◯◯◯会社、人数を7名様って書いて。あと、収入印紙貼っといてな」


「はい・・・とりあえず書いてみます」


俺はホストの立場であったが、客よりも飲み過ぎたかも知れない


もう目がグルグル回っている


「あの、収入印紙が無いのですが・・・」


「それ、そこの黒いやつ・・・金庫?それに入ってないか?200円のやつ」


「・・・ああ、これかな?ありました」


数分後


完成し、手渡された領収書にサッと目を通す


金額57,000、7名、印紙。

オッケー!


「長い時間騒いでゴメンなー、ママにも宜しく言うといてー、ありがとー」


店を出た



・・・翌日の昼過ぎ。


サンダーバードに乗り、大阪へと帰る道中


出費の整理をしておこうと思い、レシートやら領収書やらを、順番に財布から出して確認する


なんだかんだ使ったなぁ〜

また経理の子に小言いわれるなぁ


昨日の最後の店、幾らだっけ?

あそこは思いのほか安かったんだよなぁ・・・


雑〜に四つ折りで仕舞っていた領収書を、財布から出して広げてみる


宛名欄に"7名様"とある


そうそう7名で・・・っておい!


なんだよ会社名が『7名様』って。


更に、元から「様」は印字されてるから、『7名様 様』になっとるやないか!


あかん・・・

こんなの精算に廻せん(-_-;)


しかし次の瞬間


領収書の右下に貼られたものを見て「ふははっ笑」


・・・声が出てしまった


よくそんな紛らわしいものを金庫に入れてたな・・・


そこには200円の埴輪(はにわ)の切手が貼られていたhttps://kakuyomu.jp/users/aoiokina/news/16817139556426834764

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