第85話 イメージが

「父さん、私、見てはいけないものを見ちゃったわ」


「なに突然?」


「◯◯の通りで、朝方いっつも散歩してるお婆ちゃんと犬がいてさ」


「あれ?それってゆっくりゆっくり歩く白い犬とお婆さんじゃない?」


「あ、知ってる?」


下の娘と俺のマンションは近く、海岸沿いのジョギングコースを歩いていると、よく見かけるお婆ちゃんと犬がいる


お婆ちゃんはもう80近いのかな?犬も負けず劣らずなかなかの老犬だ


白といっても相当くすんだ、艶のない毛並み


この1人と1匹、いつもゆっくりゆっくり歩調を合わせて散歩しているのだが


お婆ちゃんが止まると犬も止まり、顔を見合わせる


お婆ちゃんがニコッと笑うと、犬もニコッと笑ったような顔をする


もうなんとも言えず、可愛くて癒されるのだ


この1人と1匹は長い間、寄り添って生きてきたのだろう


互いを慈(いつく)しむ気持ちが溢れているようで、傍目にも微笑ましい


「で?そのお婆ちゃんがどうかした?まさか、何か事故にでも巻き込まれたとか?」


「違う違う。ジョギングコースのベンチでお婆ちゃんが休憩していて、犬も足元で寝てたのよ」


「うん」


「私たまたま至近距離を歩いてたんだけど、お婆ちゃんが、犬の顔だか鼻先だかにゴミが付いてるのを見つけたみたいで、スッと屈んで犬の顔を撫でたのよ。そしたら突然、あの静かな犬が『ガルルッ!!』ってお婆ちゃんの手を噛んだのよ」


「え!」


「そうしたらお婆ちゃんが怒って『このやないんぐわー(野良犬)がぁ!!』ってポカスカ犬の頭叩くのよ!犬もガルゥゥゥ!ってお婆ちゃんのズボン噛んでるのよ!」


イメージ崩壊・・・

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