第62話 ニシくん

神戸空港に降り立ち、タクシーで三ノ宮まで出ることにした


ちょうど居合わせたタクシーに向かい"キャリーケースを載せたい"と後部トランクを指差す


降りて開けてくれるのかな?と思ったら、ただボン、と開いただけだったので


荷物を積んで閉め、乗車する


「JR三ノ宮駅のミント神戸側ロータリー」と告げる


が、後部座席のドアが閉まらない


そこでやっと気付いたのだが、えらく若い運転手だ


俺が手でドアを引こうとすると


「あ、すみません、ちょっと確認しますので離れてください」


運転席側でレバーだかボタンだか数回動かすと、2~3回不自然な動きをしてからドアが閉まった


「え・・・と、JR三ノ宮のミント神戸側でございましたね、申し遅れました私、◯◯タクシーの新人のニシ、と申します。お客様のご希望のルートが御座いましたらおっしゃってください」


ご希望ったってほぼ一直線


「あなたに任せるよ」と告げ、車はスタートする


確かに新人さんやな・・・普通の若い子の運転と変わらんわ


そんなことを思いながら、短い乗車時間だが目を閉じる


まもなく信号で停車する


と、おもむろに道路地図?を開いた気配


一直線やけどなぁニシくん?


そのあともう一度、信号で停車した際も、地図を開く気配


薄目を開けるとやはりアナログに地図を眺めている(ナビ画面あるのに)


まあ、それでも十数分で三ノ宮の駅周辺まで来た


目を開けるとニシくんは


インパネ中央にある「支払い」「割増」などのボタンを、今さら慌てて押しまくっている


結局、なぜか「高速」という表示で放置される


ニシくん大丈夫か?


ふと料金表示を覗き込むと6,170円


こらこら~どう回せばこの短時間にそこまで上がるのだ?(普段は3,000円以内)


駅のロータリーに入り、停めてもらう


「ニシくんさぁ、俺からぼったくるつもりかな?」


自分でも明らかに料金表示がおかしいことを理解しているニシくん


「いえいえそんな、滅相もありません、すみません」


「普段だいたい3,000円以内と思うけど、どうするの?」


「いえもう、それで結構でございます」


3,000円の言い値で良いってこと?それでも払い過ぎだと思うのだが。


「けどなんか、俺がイチャモンつけて値切ったみたいやね」笑いながら3,000円を渡すと


「大丈夫です、お客様がそんな方ではないと・・・信じております!」祈るような表情のニシくん


当たり前やろアホ


そのあともトランクを開けるのを忘れて発車しようとしたニシくんだった

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