第58話 本音

厳しく言ったり突き放したり、部下に対するものであれば、そこには愛情がある


早く一人前になれ!という。


ウチの谷やん(脳筋1号)。とにかく手が掛かる。


顔を見れば俺が小言を言うものだから、俺のことを避け気味だ


俺を不安にさせる要素は様々だが、まあ基本、いいかげんなのだ。


もう結婚したのであまり言わなくなったが、以前は


なんだそのボサボサの髪!

なんだそのだらしないシャツ!

ちゃんと挨拶しろ!


注意しない日はなかった


しかしそれもこれも冒頭に言ったとおり、常識ある社会人になって貰いたいが故だ


2022年の新年会


若手の高良(たから)くんと、若手取りまとめのU部長が、俺に近い席で何やら爆笑している


「なんやどないしてん?」U部長に聞くと


「あっいや・・・谷やんのことで」


「谷やん?・・・また何かやったんか?」


「あっ、その・・・」


なんだ?爆笑していた割には歯切れが悪いな


「いや別に、教えてくれんでもええけどよ」


「いえ、そういう訳ではなくて、その・・・Tさん、怒らないっすか?」


「何を?」


「あの、笑って済ませて貰えるなら・・・」


「怒らんよ別に」


「じゃあ・・・」


U部長は高良くんに促し、高良くんはスマホを持って俺の横にやってきた


「年末にTさん、谷さんに怒ってたじゃないですか、朝の挨拶の件で」


そう、谷やんは声が小さいのだ


だから朝は特に、元気に大きな声で皆に聞こえるよう挨拶せんかい!と


口酸っぱく注意しているのだ


「年末?怒ったかなぁ・・・毎回すぎて覚えとらんわ」


「いや、僕も谷さんに言ったんですよ。Tさんの言うように朝一番は元気に挨拶が基本じゃないですか?と」


「なるほど。後輩の君に言われたら立つ瀬がないな」


遠くの席に座る谷やんを見ると、坂下くんとバカ笑いしている最中だ


「で、『毎度毎度怒られてますけど、そもそもどう思ってるのですかTさんのこと?』ってLINEしたら返信がきまして」


そう言って画面を見せてくれた


そこにはこう書かれていた


「Tさん?うんこ」

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