毎日よ。さようなら。

木田りも

毎日よ。さようなら。

小説。 毎日よ。さようなら。


原案 米津玄師 灰色と青


あらすじ


終電を逃し、始発で帰った僕。

酒に酔った頭と二日酔いが初めましてをしている頃、昔この場所であいつと遊んだことを思い出した。それはそんなに良い思い出ではないし、喧嘩もしたし泣きもしたし、たくさん悩んだりしたけど、かけがえのない思い出であることは確かだった。そして今でもあの頃を超える思い出に出会っていない。

あいつは今どこで何してるんだろう。


昔から嫌いなやつがいた。そいつと再会することはついになかったが、僕は生涯嫌いだって思えるやつがそいつしかいなかった。どんな場所でも喧嘩をした思い出しかない。


少しだけ幻想的な夜。日々に疲れた僕は、頭が痛かった。いつもと変わらず息をする街の中に呼吸が浅い僕が歩いている。小さな公園、そこには、あの頃の風景が焼き付いている。少しだけ幻想的な夜に出会ったのは、あの頃の景色。しかし次に目を開けるとそんなものは幻だったと知る。


ノイズが走る町を歩いている。どんなふうに生きていても何か足りない。自分が何かしたところで埋められる物ではない。時が来るのを待つという残酷的な仕打ち。今日もいつもと同じ。いつもと同じ。


変わらないものを守るために変わろうとする自分。柔軟に対応できるようにするために、こだわりを持つ自分。矛盾しているようで、理に敵う行動をする僕はあまりにも普通で味気ないのだ。あいつ何してるかなぁ。僕は旅に出ることにする。場所は決まっている。目的がないだけ。僕はやっても終わらない仕事が残っている会社を休み、移動中にTwitterで流れてくる漫画を読む生活を中断し、まだスマホにも出会っていないあの頃の記憶へ向けて歩み始めた。いわば過去への回送電車に乗るような、夢の続きを見に行くような。

僕は夜汽車に乗った。


窓の外を眺めると、酔っ払いを乗せたタクシーが走る。そっちに着くのは深夜だ。それまでゆっくり眠るとするよ。待ってて。


(時が経っても変わらないものがあるって信じてた。そうあいつは僕に言った。また必ず会おう。そういえば最後に会った時にそう言ってた。その約束を果たすには時間が必要だった。待っている時間。でもその時間も過ぎてしまえばあっという間だった。今日はその約束を果たす日。僕は目を覚ます。)


目を開けるとあの公園。懐かしさに胸が痛い。ブランコは一つ揺れている。僕は揺れている隣に座る。


君が来る。揺れていたブランコに自然に乗る。器用なやつだ。そんなとこもなんかうざい。うざいって言ってやったら、うるせぇって言われた。どこがって言ったら、そういうとこって言われた。こいつとの当たり前の会話に当たり前の返し。日常が戻ってきた。


帰ったらまた仕事があるし、山積みのやりたいことリストも詰まってる。いろんな駅のスタンプラリーとか、動物園に行きたい、だとか、あとはマックのダブルチーズバーガーを食べたいとか、駄菓子のさくら大根でご飯を食べたいとかくっだらないもの。これらは君と2人で考えた。昔からやりたいことを書き出しては実現していった。小さなものから、大きなものまで。旅行も行ったし、お互いの家で朝まで騒いで怒られたり。自転車であてのない旅をした時も、深夜に公園で語り合った時も、どんな時も一緒だった。嫌いって言い合える気楽な嫌いな関係。バカって言えばバカって返ってくる安心感。


おひさ。


おう。


味気ないなぁ。久しぶりの再会だろう?


お前はなんとなく会えるだろ、いつも。


まぁ、確かに。


急に帰ってきたな。


いやーまあね。


なに、なんかあったの。


んー、ひとことで言うなら、、毎日に疲れた。


うわ、、大人だ。


そだよ、俺はもう大人なんだよーどうだ?


んーお前に言われるとなんかムカつく。


まあ、同い年だとそういう違和感あるよな笑


うん。


あーもう仕事したくないなぁ。


じゃあやめればいいしょや。


やめるわけにはいかないじゃん。


じゃあどうするのさ。


は?言っただけ。


いいな、俺も仕事してみたかったな。


えー絶対しない方がいいよ。あんま楽しくない。


でも俺は大人になってみたかった。


あーそれは確かに分かるかも。


だってお酒とか飲めるんだぜ?


そうそう、お酒は美味い!日本酒とか。


日本酒さ、ちょっとだけ舐めたことあるんだけどあれどこが美味いの?


いや、マジな話なんだけどあれ美味しさに気づいたらやばいよ。虜になる。


マジか、、そうなんだ。え、ビールは?


ビールは疲れた時に飲むと美味い。これマジ。


へー。え、タバコは?


タバコは、、そんなに美味しさに気づけなかったな。付き合いで吸ってた感じかな。


ほー大人ってええなぁ。


仕事以外な。


これから、どこ行く?


え、この状態ってどこでもいけちゃうんだよね?


まじ、どこでもいける。この前宇宙行った。


おーいいなぁ。すげえなぁ。


で、どうする?


んー、、やっぱこうなった以上、行く場所は、、決まってるよな。


もちろん。お前と一緒ならあそこだな。

おぼえてる?やりたいことリスト。


うわ、懐かしい、、昔決めたもんね笑


そうそう笑


2人揃えてこう言った。


女湯だ!!!!


ニヤニヤしながら2人は駆け出す。本当に久しぶりだった。学生の頃みたいにこれからがワクワクするような。そんな気持ち。大人になって得たものも失ったもの。その失ったものにまた出会えた奇跡。どちらも大事だけど、ここにいれるなら。おれは、ここにいたい。毎日よ。さようなら。また会いましょう。


傍目から見たブランコは2つともあの頃と同じように揺れている。やがて夜が明けて、はじまりの色をした景色が僕たちの追い風になっている。何があろうと僕らはきっと上手くいく。






(なお、昨日深夜に起きました事故の被害の詳しい状況は不明ですが、これまでに運転手の男性のほか、乗客の20代と見られる男性の死亡が確認されています。)




おわり。





あとがき。


昔、大人になりたかった自分がいたことを思い出した。はやく自分でお金を稼ぎ、好きなことをして誰からも縛られることなく生活してみたい。しかしそれと同時に安心感のある家や帰れる場所。誰かが待っていてくれる場所があるということを失いたくもなかった。自立したいけど自立する気はないようなそんな気持ちがあった。自分の中にも変化があり、たまたま1人暮らしが始まるという時期になった。不安8割、期待2割くらいでその時を待っている。


あんなになりたがった大人になった今、どうしても子供に戻りたい自分がいる。あの頃の親友はもうみんな札幌にいないし、連絡先も知らないからいつかどこかで偶然出会うしかないのだけれど、もしまた会えたら昔話ができる数少ない存在として、いてくれるのだろうなんて思う。


灰色と青という曲は、もう戻れない思い出を思い出し、また今の生活に戻っていく気概が感じられた。僕は一回思い出に戻ったらもう戻れないだろうと思う。思い出大好き人間だからいつまでも固執してしまうと思うのだ。


読んでくれた皆様に感謝します。

終わらない毎日、自分に花束をあげ続けましょう。生きてる人全てがえらいです。

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毎日よ。さようなら。 木田りも @kidarimo777

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