光の乱舞(三)


 御嶽ウタキと気づかずに訪れて、神霊を怒らせていたことを知り、パワースポットめぐりをしたことを後悔している。


 姉貴は俺が固まっていることに気づかないまま話を続ける。


「城跡の祭祀場跡は神聖な儀式を行う大切な聖域、水は生きていくために必要だから湧水自体が聖域、石彫りの獅子は魔除けでしょ。

 このほこらは海のすぐそばにあるから、たぶん海神を祀った場所じゃないかな?

 聖域や魔除けになっている場所や物には、神霊が降りてきたり宿っていたりするから御嶽ウタキの場合が多くて地域の人たちが大切にしてる。

 御嶽ウタキに軽い気持ちで行くとばちがあたるっていうじゃん?

 ロウのバイク事故はパワースポットめぐりをしたときに、どこかの御嶽ウタキの神霊を怒らせてしまって、そのカエシがきてたんじゃないかな?」


 話し終えて顔を上げた姉貴は俺を見ると驚いた顔になった。焦りだして手ぶりを入れながらフォローしてきた。


「でもっ、もう大丈夫だよ!

 ロウが行った御嶽ウタキは全部回ってちゃんと謝ってきたし、後ろにいるヒトも協力してくれたみたいだし――」


(なんだ? 今、変なことを言ったぞ)


 疑問が自然と言葉にでた。


「『後ろにいる』ってなんだよ?」


「えっ? あっ……」


 手ぶりが止まって、しまったという表情に変わると、すぐに視線をそらした。


(まだ何か隠してやがる!)


「全部話せ!」


「え……っと……」


 困ったように言うと、上を向いたのでつられて上を向いたが何もない。


 今いる場所は木々が生い茂って小さな森のようになっている。浜辺から祠へ行く道と祠の周囲だけ草木がない空間ができていて、その部分だけ夜空が見えているくらいだ。


(何もねえ。

 いや……待てよ。何か違和感がある)


 空間をじっと見ていると風景がわずかに揺らめいてる。灼熱の日に現れる陽炎かげろうのように、ゆがみが発生しているように見えてきて凝視する。


(なんだろう?

 透明なナニカが宙にあるように見える)


 じっと見続けていると風景の中に境目があることに気づいた。後ろの木がちゃんと見える部分と、透明な膜を通して見たときのように少しゆがんで見える部分がある。

 目を凝らして境目の部分を追っていくと、徐々に目が慣れてきて空間に居るモノの輪郭が見えてくる。


(地面からそのまま上に伸びてるものがある。

 丸みのある部分があって、なんか円柱みたいだな。

 二つあって……上で一つにつながっている?)


 輪郭を追っていくと透明なナニカには形状があってとても大きいモノだと気づいた。サイズがわかると輪郭を探すのが早くなり、空間に居るモノの形がわかってくる。


「なっ、なん……だ!?」


 空間には2本足で立つ巨大なモノが居る。人の体のように手足があって立体的ではあるけど中身はなく、透けて向こう側の景色が見えている。一度姿をとらえたら詳細までわかってきた。


(姉貴のすぐそばに、人間のような形をしたモノがいるっ)


 人を縦に伸ばしたような細身の体形をしたモノが、腰を曲げた状態でいて、顔と思われる部分を祠に近づけて見ている。

 細長いからバランスが悪いようで、長い手を地面に置いて体を支えおり、直立すると周りの木より高そうだ。


 全体像がわかり、視えたモノの異形さに思わず後ずさる。


「ここに来て初めて姿が視えた。

 パワーが強い聖域だから視えるのかな?」


 俺は視えているモノの巨大さに腰が引けているのに姉貴は感心している。


「霊感がある人に『強いモノが守護している』と言われたことがあったけど、本当だったんだなあ。

 これまで守護霊みたいな存在と解釈して、通常のヒトを想像していたけど、このサイズは――巨人だね」


 初めて視た異質なモノに驚かず、すっとんきょうなことを言ってきたので、ぽかんとなった。半分口を開けたままでいると、顎に手をやって首をかしげている姉貴が巨人を見上げたまま話してきた。


「ほ―――ん。

 ロウ、なんとなくだけど……御嶽ウタキの神霊たちは謝ったから怒りが解けたんじゃなくて、巨人さんが何かしてくれた気がするなぁ」


(今、「気がする」って言ったよな!?

 何が起こっているのか姉貴にもわかっていなかったのかよ!?)


 耳を疑うような台詞せりふに、サ―――ッと背中が冷えていくのを感じた。

 姉貴の視線が巨人から俺のほうへ向いて目が合うと、にぱっと屈託なく笑った。


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