ヒト 妖《アヤカシ》 神霊

隣り合わせ(一)


 バイクで事故って入院した。

 重傷じゃなかったのに姉貴が見舞いに来た。


 姉貴は大学生で県外の大学に通ってて島にはいない。島へ来るには飛行機か船を使わないといけないのに、わざわざ島に戻ってきた。

 島に着いて早々、俺が訪れたパワースポットへ行きたがったので変だと思った。


 姉貴の行動には絶対に何かあると思って強引についていき、4つのパワースポットをめぐった。最後のほこらに来て、姉貴が島に帰ってきた理由がわかった。


(何も話していないのに、俺が神霊の怒りを受けていると気づいて、怒りを解くために島に来たのか)


 変なことが続いてると感じていても対処できなくて不安になっていた。そんなときに姉貴が来てくれたのは嬉しい。そして神霊の怒りを解いてくれたことには感謝している。でも姉貴の話を聞いて怒りがわいてきた。


(これまでの行動は確証があるものだと思っていた。

 それなのに「気がする」だと? わからずに行動していたのかよ!

 姉貴にまで神霊の怒りが向いてしまったら、どうするつもりだったんだ!!)


 御嶽ウタキを訪れたことで返ってきた罰は容赦なかった。アヤカシに襲われて生命いのちの危険も感じた。それなのに確証もなく行動していた姉貴に対して心配を通り越して腹が立ってくる。


(俺がしたことなのに、姉貴を危険に巻き込みたくないんだよ!)


 イラつかせた当人は飛んでいる光の玉を見ている。


 魅入るように光を眺めていたけど満足したのか、おもむろに祠の前にしゃがんで香炉の前に置いていた紙コップを片づけ始めた。

 片づけが済むとコンビニ袋を手に持ち、機嫌よく歩き出した。林から出て行こうとしているので、あとを追う。


 軽い足取りで砂浜を少し進むと立ち止まった。すぐに追いついて隣に横に並んだ。横目で見ると暗い海を眺めている。


 身の危険を顧みない行動に腹が立つけど、俺が招いたことだから何も言えない。代わりに、にらみつけて圧をかけたが残念ながら姉貴は鈍感すぎて気づかない。


(無鉄砲すぎるっ。あまり無茶しないでくれよ!)


 しばらくにらんでもやっぱり気づかない。



 間近で見て気づいたことがある。

 姉貴は前に会ったときと少し変わっている。


 姉貴は幼いときは日焼けして真っ黒だった。でも島から出て行ったころは周りと比べると肌の色は白いほうになっていた。それがしばらく会わないうちにさらに白くなっている。

 月華が白を反射して、姉貴の肌がほのかに発光してるように見える。


 連絡もなしに病室に現れて、半日かけてパワースポットをめぐってきた。一緒に行動して、今も隣にいるのに幻または夢を見てるような光景で現実味がない。


(パワースポットへ行ってきたよな?

 姉貴と海を見ているのは現実だよな?)


 不安がよぎって存在を確かめるように凝視してしまう。視線に気づいて俺を向くと、どうしたのと問うように見つめている。

 目をじっと見つめるのは姉貴の癖だけど、感情を読み取っているようで少し苦手だ。


 俺の心境を察したのか、姉貴はにこっと笑うとゆっくり伸びをしてしゃがんだ。砂浜に置いていたコンビニ袋をあさって紙コップを取り出すと、パワースポットに持っていってた酒を注いでいく。半分まで入れたら差し出してきた。


「ロウ、清めだから飲んで」


 飲み干して紙コップを返すと、今度は自分で飲み始めた。

 まずはちびりと口をつけた。すると目が輝いて、ごくごくと一気に飲んでいく。飲み干すとすぐに次を注いだ。一升瓶に残っていた酒をすべてを飲むと満足げに笑った。


「初めて飲んだけど、このお酒、おいしい!」


 酒瓶を持って裏に貼っているシールをまじまじと見ながら目をきらきらさせ、にこにこと笑って機嫌がよくなっている。


 長年そばにいたから姉貴の性格は知っている。強引に聞きだそうとすると黙ってしまうけど、油断しているときに質問すると、ぽろっと答えてくれることが多い。チャンスとみて聞いてみた。


「さっきの巨人が俺を助けてくれたことはわかった。

 でもそれだけじゃないだろ。アンタは祠で何をしていたんだ?

 光が集まっていたこの酒はなんだ?」


「ロウも飲んだじゃん。お酒だよ」


「ただの酒じゃないだろ」


「地酒だよ~」


「それだけじゃないだろう。光が寄ってきてたじゃねえか」


「ああ…あれは……」


 ごにょごにょと声が小さくなっていく。この期に及んでも隠そうとしてることに、イラッとするけど気持ちを抑え、姉貴のほうから話してくれる手段を取る。


「教えてくれよ。知りたいんだ」


 わざとトーンを落として頼み込む。あとは目をじっと見て話してくれるのを待つ。

 姉貴はすぐに困ったという表情になって目が泳ぎだした。黙って見ていると、逃げるように歩き出したので、何も言わずにあとをついていく。


 さざ波の音のほかに砂を踏む音が聞こえる。

 夜の海は一人だと取り残されたようで寂しさと孤独を感じるけど、二人分の足音は一緒に遊んだ思い出が浮かんできて楽しかった気持ちがよみがえる。


(このビーチは家族や親戚とよく来た。

 みんなでシュノーケルやバーベキューして楽しかったな。

 姉貴はシュノーケルが好きでずっと泳いでいた)


 前を歩く背中はむかしは大きくて頼もしく見えた。でも今は自分のほうが背が高いし体格もいい。


(姉貴は俺より全然小さいし、女だから力だってない。

 体格も力も俺のほうが上だけど、居るだけで安心できる)


 後ろを歩いていたけど、少し足を早めてわざと隣に並んだ。


(焦ることはねえ。

 姉貴と海へ来たのは久々なんだ。散歩しながら待てばいい)


 マリンスポーツが充実していることで人気があるビーチだが、長く続く白い砂浜も自慢で散歩するにはちょうどいい。

 波打ち際に沿うように歩いていると、水平線が明るくなっていて夜明けが近いことがわかる。


 我慢比べを続けていたら、思っていたとおり姉貴が話し始めた。


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