隣り合わせ(二)
「あのお酒はね、酒店で普通に売っている地酒だよ。
ただ
姉貴がやっとで話しだした。あとは質問していくだけだ。
「酒を持ってパワースポットに行っていた。
詳しく教えてくれよ」
「それぞれの
「掃除?」
「ペットボトルとかお菓子の袋とか、ポイ捨てされたゴミを拾ってきれいにしてきた」
姉貴の声はやたらと通って耳に心地よく、奇妙なことを語っているけど不思議と腹に落ちる。
「どの
到着すると『帰れっ!』と強い意思のようなものが伝わってきて圧倒される。
でもねえ、お酒をあげたら場の雰囲気が変わるんだ」
「雰囲気が変わるって、どんなふうに?」
「ほ―――ん……。
こう、ぱあぁぁっと喜びの感情っていうのかな?」
こっちを向いて腕を上げたポーズをして笑って見せたけど、相変わらず会話が下手すぎる。
今ので理解しろと言っても、たいていのやつはなんのことだかわからないと思う。でも俺には姉弟という長い付き合いがあるからなんとなく想像できた。
(姉貴が
拒絶する気配を感じていたけど、酒を供えて謝罪したら辺りの空気が変わったのがわかった。
そのあと掃除を始めて、終わったころには
姉貴にとってもパワースポットで体験したことは不思議だったようで話に熱が入ってくる。
「ロウは城跡がパワースポットといわれてる理由を知っている?」
「全然知らねえ」
「グスクといえば『城』の漢字を使うから城郭というイメージが強い。実際に権力者の拠点だった城跡もいくつかある。
でもね、もともとは神聖な場所――何か不思議なチカラがある聖域だったのではという説があるんだ」
「権力者の拠点としか思ってなかったぜ」
「ふふっ。結果的にそうなるんじゃないかな。
島ってさ、物や場所などいろんなところに神霊が存在してるというアニミズムの文化があるよね。
むかしは今ほど科学や技術が発展してなくて、台風や地震などのメカニズムがよくわかってなかった。だから危機が訪れるのは神霊のチカラが働いていると思っていたんだ」
(小さいころ、テレビを見ていたら地震のニュースが流れた。
そのとき横にいたじいちゃんが「地震は地面の中にいるナマズが起こしているんだよ」と冗談ぽく言っていたけど、むかしの人たちは本当に信じていたのかもしれない)
島は地震が少ないのでぴんとこないけど、『雨ごい』に置き換えれば身近になる。
島の場合、大きな川がないので水は雨に頼っている。台風が来ると大雨となり、ダムが一気に満水近くになるのであまり心配することはない。ところが雨がまったく降らず、台風が少ない年があった。
いくら待っても雨が降る気配はなく、いよいよダムの水も尽きかけたときに、数十年ぶりに雨ごいの儀式をして成功したと聞いたことがある。
(科学や技術が発達しても、雨ごいの儀式をして見えないナニカに頼る……。
雨ごいのあとに雨が降ったとしても根拠はない。ただの偶然かもしれない。
でも未知のチカラが存在すると、どこかで信じている俺がいる。ほかの人たちも同じような気持ちなのかもしれねえ)
「いろんなところに神霊が存在していると考えていたのなら、強いチカラに頼りたくなる」
「そうなるよね。当時は天候に生活を左右されていた。だから霊的な存在にも守ってもらおうと考えて、チカラが強い場所に集落をつくったという説をどこかで読んだことがあるよ。
権力者もさ、自分が統治する集落を守るには、戦いに勝つ知識や腕力などが必要なだけでなく、神霊の加護もないといけないという考えもあったんじゃないのかな?」
「さっき行ってきた城跡も場所自体がパワースポットだったってことか」
「集落も大きくなると、王の座に就けるくらい力を持つ人が現れる。そんな人たちほど神霊や先祖を敬い、聖域を大事にして、よく祭祀をしていたらしい」
「もしかして城跡の中でも一番パワーが強い場所が――」
「あの祭祀場跡だよ。
案内板で確認して祭祀場跡に行ったけど、着くと
面白いことにね、少し経つとお酒はなくなるんだ。それで追加するんだけど、またなくなっちゃう。あの
もうひとつ面白かったのは、お酒を置くと、『おぉー! お酒だあぁー!』と喜んでる気配を感じた。酒宴に参加しているみたいで自分も楽しくなったよ。
祭りに行くと周りの空気にのまれることがあるじゃん?
あんなカンジでさ、一緒に酒盛りしたい気分になった」
姿が見えないモノがそばにいるとわかっただけで不気味で怖い。そんなモノと接触したら普通は恐ろしくて逃げ出すはずだ。それなのに姉貴は全然怖がっていない。
だんだん口調が速くなってて声がはずんできている。手ぶりも入ってきていて、体験した出来事が姉貴にとって珍しいことだったと見て取れた。
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