光の乱舞(二)
「ホタルみたいなものが飛んでる」
「きれいだよね~」
香炉の前には紙コップがあって、なみなみと酒が入っている。祠の奥からぽわっと光が現れると、誘われるようにふらふらと紙コップに近づいていく。そのまま水面まで行き、静かに酒にふれると明るさが増した。
光はしばらく水面ぎりぎりのところでとどまっていたけど、酒から離れて祠の周囲を軽快に舞い始めた。
光は祠の奥から次々と現れて、同じように酒にふれてしばらくすると飛んでいく。途切れることはなく、数がどんどん増えていく。
祠の周辺は光が乱舞している。
くっついたり離れたり、上下に激しく動く光もあれば円を描くように動く光もある。木々に囲まれ薄暗いはずの祠は無数の光に包まれた明るい空間になっている。
幻想的な光に見とれていたが妙なことに気づいた。光は遠くからだとホタルに見えたが、よく見ると1ミリくらいの丸い玉が輝いている。
(ホタルじゃない!)
奇妙な光に驚いて姉貴のほうを向くと、目をきらきらさせて光の動きを追っている。
(ほかのパワースポットにいた
視えてるなら光がホタルじゃないことに気づいているはず。
なんで驚かねえんだ?)
どう見ても普通ではない状況なのに落ち着いてて、余裕まであるように見える。何か知っていると感じて質問した。
「この光、ホタルじゃねえだろ。
アンタ……何したんだ?」
少しトゲのあるような言い方になってしまった。
姉貴は黙って俺を見てきたけど、すぐに視線をそらした。
「何もしてないよ?」
(全然隠しきれてねえよ!)
香炉の前にある紙コップには酒が注がれていて、香炉には人の形をした和紙が置かれている。何かをしていたのは明らかだ。
「嘘つけ! 知っていること話せよ!」
我慢できなくて声を荒らげると驚いた顔をしたがすぐに表情を戻した。眉間にしわを寄せて「ほ―――ん……」と小さくこぼすと、腕を組んで視線をあちこち泳がせてうなっている。
すぐに話してくれないことにイラつき、催促しようとしたら顔を上げて俺を見た。
「掃除して謝った」
「は……?」
(言いたいコトがよくわからない!)
むかしからそうだが、姉貴は思ったことをストレートに話すので言葉が足りなくて伝わらないことが多い。もっとわかるように詳しく話せと言う前に言葉が続いた。
「ロウは今日めぐった場所がどんなところだったのか知らないだろう?」
「パワースポットと聞いている」
「ん――。そうだね……。
パワースポットで当たっている。でもそれだけじゃないんだ」
たどたどしく話していくのは俺がわかりやすいように言葉を選んでいるのだろう。まどろっこしいがせかすようなことはせず、姉貴が情報を整理してから話し始めるのを待つ。
「ロウは『拝所』とか『
「じいさんやばあさんが拝んでいる聖地みたいなトコのことだろ」
「おっ! 知っているなら話は早い。
今日行ったところはね、
「え……」
(
もしかしてジョウも知らなかったのか?)
単なるパワースポットめぐりではなく、
『カミサマがいるところには、いたずらに入ってはいけない。
(親が共働きだから幼いころは、じいちゃん
家での遊びに飽きて、姉貴と俺が庭の外へ出かけようとすると、ばあちゃんが俺たちに
俺は知らないうちに
島では
祖父母から「
よくある伝承だと気にしない人は多いけど、島では笑って流せることではない。
(噂は信じていなかった。けど……
俺の身に起こっていたことは禁忌を破ったせいなのか?)
ジョウたちとパワースポットをめぐったあと、バイク事故で危うく死にかけた。姉貴と再度パワースポットを訪れたときは耳鳴りや頭痛に苦しめられ、あげくに
訪れた場所が
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