二週間すぎて


「心配かけてごめん! 脱水症だったの」


 2週間学校を休んで登校してきたマミは少しやせていた。でも思っていたより元気だったし、何より無事が確認できたからほっとした。


「ったくよ~、脱水症って子どもか老人みてえだな」


「うっさい。それよりジョウは事故ったんだって?

 大丈夫だったの?」


「アバラと足にちょいひびが入ったくらい」


「ジョウが登校したとき、顔が怖かったってみんなが言ってたよ?

 まだ痛そうだね」


あざはだいぶ薄くなってきてるぜ」


 夜のドライブに行った直後の事故だったので、マミが責任を感じないように車の事故の話題は避けた。

 代わりに最近聞きだした曲のアーティストが変わっているだの、国道沿いに新しくできた店の話など、関係のない事柄を振っていった。


 顔を合わせたときは不安げな表情をしていたけど、話を続けるうちに緊張感が薄れて今は笑顔を見せている。


(やっと笑ってくれたぜ。

 マミは心配性なところがあるからな。早く怪我を治さねーと、いつまでも気にしそうだ)


 リラックスしてきたマミに、それとなく学校を休んでいた間のことを聞いてみると、いろいろ話してくれた。

 マミはパワースポットめぐりから帰ったあと、気づかないうちに脱水症になっていて、しばらく入院していたという。


「夜になって喉がすごく渇いていたのを覚えているわ。

 水を飲んだんだけど、うまく飲めなくて吐き出してしまうの。それでも水が飲みたくてまた飲むんだけど吐いちゃって……。途中から意識がなくて、気づくと病院のベッドで寝ていたわ。

 何があったのかお母さんに聞くと、はじめは話すのをためらっていたわ。でも何度も教えてと頼んでいたら、『大変だったんだから』と言いながら状況を話してくれたわ。

 入院してからも、わたしは水を飲みたがっていたらしいの。それで用意するけど、家にいたときと同じようにうまく飲めずにいて、みんなを困らせていたみたい。

 しばらく水を欲しがる状態が続いたけど急に静かになって、それからずっと眠るようになったんだって。そのあとは少しずつ治っていって、先週は自宅療養してたの。

 もう全然平気だよ」


 マミは笑って話しているが、ふとしたときに表情に陰りがでる。不安を隠しているのがわかっているけど、懸命に明るく振る舞うから何も言わずに調子を合わせている。


(マミが落ち込むのは無理もない。

 カノコちゃんのことを聞いたときは驚いたぜ)


 マミは元気に登校してきたが、カノコは2週間過ぎても学校に来なかった。


 退院して自宅療養している間、マミのスマホは親に取り上げられていて土曜日になってやっとで返してもらった。

 たまっていた未読のメッセージを読んでは返信を繰り返していると、だんだんと情報が集まっていく。そうしてカノコもずっと学校を休んでいることを知った。


 マミはカノコに安否を尋ねるメッセージを送ったけど返事はこなかった。そこで電話をかけてみたけどつながらない。

 次にカノコのクラスメートにメッセージを送って情報を得ようとしたけど詳細を知っている子はおらず、カノコは誰とも連絡を取っていないようだ。心配になり、カノコの様子を見に行くことにした。


 翌日、マミはカノコの家を訪れた。

 訪問すると、いつもはカノコの母親が迎えてくれるのに、珍しく父親が対応してきた。カノコがずっと学校を休んでいるのが心配で見舞いに来たことを伝えて体調を尋ねると、ちょっと調子がよくないので入院していると答えてくれた。

 入院するほどよくない状況なのかと焦ったが、父親は用心してのことだから心配ないという。それなら見舞いに行こうと、どこの病院なのか聞いてみたけど、言葉を濁して教えてくれなかったらしい。


(マミはカノコちゃんと仲がよかった。

 いきなり音信不通になったら、前日まで一緒に行動していたこともあって、安否が気になるし責任を感じるよな)


 マミが登校したらいろいろ質問するつもりでいた。でもドライブの日の話はどうやってもカノコちゃんと結びついてしまう。連絡のつかない親友の話をするのは酷なので聞きだすことはやめにした。

 別の話題に切り替えて、パワースポットめぐりのことは話題にしないようにした。




 カノコが登校してこないのでジョウはマミの前で話題にするのを避けていると、学校で彼女の話をすることが減っていった。


 ジョウとマミのクラスでは二人がふざけ合う光景が見られるようになった。クラスメートは以前となんら変わらないと思っているが、当人たちは少し距離ができていると感じていた。




 カノコが学校に来ないまま時は過ぎていく。

 高校3年は先のことを考えないといけない。進学する者、就職する者、みなが忙しくなる。勉強に励んだり就職活動をするうちに、目標が見えてきてそれぞれの道を歩み始める。


 マミは大学受験の勉強に励みながら定期的にカノコに電話をし、メッセージを送るけど返事はこない。また何度か家へも行ってみたけど、父親が対応して病気療養中と言って追い返された。


 数か月が過ぎていき、3学期が始まったときにカノコが引っ越したことを知った。

 カノコ本人と連絡が取れないのでどこまでが真実なのかは不明だが、いつの間にか高校を中退していて、県外にある母親の実家へ引っ越したらしい。

 父親と妹は島に残っているので、学校でいろんなうわさが流れたが、大学受験が迫っていたのですぐにカノコの話題はなくなった。




 時間はどんどん過ぎて――


 三月。

 卒業式を迎えたジョウ・マミ・ロウは高校を去った。



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