曇天の放課後
ジョウの見舞いに行った翌日、ふだんどおり学校へ登校した。
数日間、連絡が取れなかったので心配で落ち着かなかったが、ジョウの状況がわかって安心できた分、余裕もできた。昼休みにジョウのクラスの前を通ったときに、ふと思った。
(そういやマミさんはジョウと同じクラスだ。
ジョウと連絡が取れなくて心配しているかもしれない)
ジョウがスマートフォンを無くしたことを伝えようと、マミを探したが教室に彼女の姿はない。昼休みなので、教室を出てどこかで食事をしていることも考えられるがどうも気になる。教室内にいた女子にマミのことを尋ねてみた。すると月曜からずっと休みという。
(月曜から?
ジョウと同時期に学校を休み始めたのは偶然なのか?)
当然カノコのことが気になってきた。カノコの教室へ行き確認しようかと考えたが、昼休みは教室から出ていく学生が多い。昼休みから戻ったときに様子を見ることにして、友人たちとランチを食べに行った。
ランチから戻るとカノコのクラスへ寄って教室内を見てみた。授業が始まる前なのでほとんどの学生が席に着いている。その中にカノコの姿は見当たらない。クラスメートに聞いてみると、カノコも月曜から休んでいるという。
(三人とも? こんな偶然ってあるのか?)
マミとカノコとは連絡先の交換をしていないから連絡が取れない。しかもパワースポットめぐりが終わったあと、待ち合わせしたコンビニで二人と別れたので家の場所もわからない。
二人のことを知っている人から連絡先を聞く方法もあるけど、これまで親しい関係じゃなかったから勘繰られるだろう。それに個人情報を他人から聞くのははばかれる。
(三人に共通するのはパワースポットめぐりだ。
あの日のドライブが関係しているのか?
でもジョウは車の事故だ。一人で山に行っているから二人とは関連性がない。やっぱり偶然か?)
マミとカノコは「体調不良」で休んでいると聞いたが、学校を休む場合は風邪だろうが腹痛だろうが体調不良を理由にする。また、さぼる場合も同じように体調不良を使うのであてにならない。
(ジョウとは関連がないとしてマミさんとカノコさんには共通点があるのか?
パワースポットめぐりをした場所で二人に何かあったのか? それとも店で食べた物が原因か?)
もやもやするが何かできるわけでもないのでいら立ちと不安が募る。午後の授業はまったく頭に入ってこず、学校が終わったらジョウを見舞うため病院へ行くことにした。
放課後。バイクを走らせて病院へ向かっている。
ジョウは事故を起こした場所から近い病院へ搬送されたので、途中で事故をした山の近くを通ることになる。事故現場が気になったので山へ寄ってみることにした。
(ジョウとはバイクでよく来ている。
走り慣れている山で事故るなんて意外だ。
下りのカーブでって言っていたから、やっぱスピードを出していたのか?)
山の入り口でいったんバイクを止めた。山はいつもと同じで変わった様子はない。
(ジョウは運転がていねいだ。バイクで山を走っても事故につながるようなミスはしない。
車は乗り始めたばかりだから運転操作を誤った……としか思えない)
事故の現場を確認するため再びバイクを走らせ、まずは山の上を目指した。
一気に森を駆け抜けて山頂まで来たけど変わったところは何もなかった。頂上には広いスペースがあるのでバイクを止めて空を見上げた。山道は木々が覆いかぶさるように茂っているので暗いが、頂上は開けているので空がよく見える。
嫌な雲が上空にとどまっていて小さな
(本格的に降ってきそうだ。早く下りよう)
すぐにバイクを走らせて下りに入った。
ヘルメット越しに風を切る音が響いている。風が強いのかザザザッと葉がこすれる音が聞こえ、時おりパキンパキンと細い枝が折れるような音も交ざる。
山を下って行く途中のカーブで不自然なタイヤ痕を見つけた。道の脇に邪魔にならないようにバイクを止めて現場を見始めた。
タイヤ痕は弧を描いて二車線をまたぎ、そのまま崖の先へと続いている。跡を追って道路の端まで行き、下をのぞき見た。
正面に見えている木の幹ははげていて、崖下には雑草が押しつぶされた長方形の空間がある。車は引き揚げられていても生々しい痕跡だ。
(ジョウの怪我があの程度で済んでよかった)
改めてジョウが無事だったことに安堵し、気を取り直してジョウのスマートフォンに電話をかけてみた。探せるようなら回収するつもりでいたけどコール音はなく、アナウンスに切り替わっている。
スマートフォンをしまい、今度は見舞いに行ったときにジョウが話していた『緑の物』を探すことにした。
道路上には何もないので崖下を見るも該当しそうなものはない。
じっくり探したかったが体に当たる雨粒がさっきより大きくなってきている。どしゃ降りになりそうな空模様だ。
(雨がひどいとバイクで走れなくなる。その前に病院へ着かないと)
再びバイクに乗ると山を下り始めた。
ヘルメットに当たる雨粒の数が増えてきている。下りとあってスピードが乗り、雨粒はすぐに流れていく。カーブに来てもスピードは落ちず軽快に駆け抜ける。風を切る音の中に別の音が聞こえた気がした。
音に意識を向けると奇妙な音は背後から響いている気がする。くぐもった音は唸り声のようにも思え、どんどん大きくなっている。後続車が来たと思い、ミラーを見るが何も映っていない。何かが近づいてきたと感じたのは気のせいのようだ。
スピードを落とすことなくバイクを走らせ続け、車とすれ違うこともないまま山の出口近くにきた。山道は薄暗いが山を抜けた先は一本道になる。そこから先は畑が広がっていて見晴らしがいい。
山を出て一本道に入ると、アスファルト舗装された広めの道路が交差しているのが見えている。車は通っておらず、交差する道路まで来ると少しだけ減速して左折した。
車体を傾けた瞬間、下から押し上げるように体に何かがぶつかった。驚いて左を向くも何もない。
(えっ!? なんだ!)
傾けたバイクごと押し返すように何かが当たっているが正体が見えない。バイクのすぐ横に居るモノはバイクを押しやっていき、左に傾いていた車体が徐々に右へ傾いていく。
ヘルメット越しに、ピシピシピシと氷にひびが入るような奇妙な音が響いてきた。
(体重がかかってるのに押し返される!)
バイクが直立すると、パキンッと乾いた木が割れたような大きな音が鳴って思いきりはじかれた。
ロウの操縦から離れたバイクはそのまま走っていたけど、すぐにバランスを失って転がっていく。
飛ばされたロウは落下しながらバイクがこすれる音を聞いていた。どんどん地面が近づき、肩に衝撃を感じたところで視界が真っ暗になり意識が途絶えた。
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