女子高校生 Kの場合

言葉にできないことは日記へ


(マミちゃん、夜にドライブ行ったこと叱られていないかな?)


 ふと親友のことが思い浮かび、日記を書いていたカノコの手が止まった。


 今は一人だが午前中は部屋にマミがいた。

 パワースポットをめぐり終えたあと、待ち合わせしたコンビニで解散したけど朝早い時間だった。そのままマミが帰宅すると、家族に怪しまれるのでカノコの部屋で時間をつぶしていた。


 カノコの両親は共働きで朝早くから出て夜遅くに帰ってくることが多く、どちらかが家を空けることもままある。家族間のコミュニケーションが少なく、娘が部屋から抜け出して夜通しドライブしていたことにも全然気づいていない。

 ばれないと思っていても、こっそりしていた女子トークはスリルもあって楽しかった。


 放任に近い環境のためカノコは自分のことは気にしないけど、マミが帰宅後に親に怒られていないか気がかりだ。


 しばらくマミのことを考えていたけど日記に目を戻した。


 カノコは気持ちを人に伝えることが苦手で、小さいころから日記に想いをつづっている。いつも寝る前に書くようにしていたけど、マミと別クラスになってからは書くことが減っていた。


 高校3年になったカノコの学校生活は灰色のスタートだった。日記に記す内容は似たような文ばかりで、友人や進路に関するワードがよく出てきた。



‖4月△日‖

 マミちゃんと別のクラスになった。


‖4月△日‖

 このクラスでは仲のいい友達ができない。

 マミちゃんは別の友達といるから一緒に遊べない。


‖4月△日‖

 古文は苦手。


‖4月△日‖

 進路指導がある。

 先生は□□短大なら大丈夫って言っていたけど本当かな。


‖4月△日‖

 数学部分でほかの教科のカバーをしよう。



 内容は授業や進路の悩みのことばかりで似たような文が続いていた。ところがゴールデンウィークを過ぎたあたりから変化が出てきた。



‖5月△日‖

 今日も見かけた。

 名前を知りたい。


‖5月△日‖

 友達が「R」って呼んでいた。

 Rくんって名前なのかな?



 日記は進路の悩みのほかに、恋をしているような言葉が現れるようになる。「廊下ですれ違ったわ。とてもうれしい。」「ジャージ姿を見れた。カッコイイ!」など特定の人を眺めている状態が続き、次第に進路よりも恋の割合が増えていった。



‖6月△日‖

 隣のクラスだから廊下を通るたびにRくんが見れるけどもっと知りたい。

 友達になりたいな。


‖6月△日‖

 女の子がRくんに話しかけていた。

 何を話していたのか気になる。

 わたしもあんなふうに話しかけることができたらいいのに。


‖6月△日‖

 クラスの子がRくんは下級生からも人気があるってウワサしていた。

 カッコイイもんね。

 やっぱり女の子は好きになっちゃうよね。

 彼女いるのかな?

 いないでほしい。



 箇条書きのように短かった文が長くなって、想いが記されるようになっている。夏休みの直前あたりからは、また進路のことが多く書かれるようになり、合間に恋する想いがつづられるようになっていた。



‖7月△日‖

 夏休みが近い。

 学校でも受験対策講座をやるらしいけど、わたしは塾通い。

 集中して勉強頑張ろう!


‖7月△日‖

 個人面談があった。

 何度もしているけどやっぱり緊張する。

 高校を卒業すると就職する子もいるから学生生活は終わりっていう感じがする。

 みんな進路は決まっているのかな。

 不安はないのかな。

 わたしは短大と決めたけど今でも不安。

 これでいいのかな。


‖7月△日‖

 今週で学校は終わり。

 新学期までRくんに会えなくなる。

 さみしいな。



 夏休みに入ると塾での様子が書かれるようになった。勉強に打ち込んでいる日々がつづられ、ほぼ同じ内容が続いていたけど、夏休みが終盤に差しかかるとまた変化があった。



‖8月△日‖

 あと数週間で塾も終わる。

 模試の成績もよかったし成果がでている。

 塾に通ってよかった!


‖8月△日‖

 今年の夏は塾以外に何もしていない。

 高校最後の夏なのに  Rくんは何をしているのかな。


‖8月△日‖

 マミちゃんはどうしているんだろう。

 3年になってからほとんど遊んでいない。

 また家に泊まりに来てくれないかな。


‖8月△日‖

 何もしないまま夏休みが終わってしまう。

 明日わたしからマミちゃんに連絡してみよう。



 日記に書いたとおりマミに連絡して、後日カノコの家で女子会をした。その日の日記は走り書きに近いかたちで書かれており、感情が追いついていない様子が見て取れた。



‖8月△日‖

 マミちゃんが泊まりにきた!

 女子会にお菓子とジュースは欠かせない。

 クッションも用意して映画を見た。

 一緒に映画を見るのって楽しい。

 でもホラーはやめておこう。

 マミちゃん怖がっていた。

 マミちゃんにRくんのことが好きって言っちゃった。

 驚いていたけど応援してくれるって! とてもうれしい!

 マミちゃんに話してよかった! 女子会、最高!



 この日からスマートフォンを使ってマミと連絡を取り合うようになり、日記はメモ書きのようなものになっていった。2学期が始まると、また日記の内容に変化が出てきた。



‖9月△日‖

 学校でおまじないのウワサを聞いた。

 願いごとが必ずかなうらしいけど本当かな。


‖9月△日‖

 マミちゃんにおまじないのこと聞いたら調べてくれた。

 願いごとがかなうおまじないで間違いないみたい。

 必ずかなうならやってみたいな。



 しばらくの間、日記にはまじないのことばかりが乱雑に書かれていて熱心に調べていることがわかる。メモ書きのような書き方が落ち着いたのは、まじないの内容を調べ終えたときだった。



‖9月△日‖

 おまじないの内容が全部わかった。

 月が出ている夜に順番どおりパワースポットへ行き特別な場所で願いごとをする。

   1 城跡(祭祀場)

   2 湧き水(ほこら

   3 石彫りの獅子

   4 ビーチ(浜辺奥の祠)

 おまじないは難しくない。

 でもパワースポットはそれぞれ場所が遠くて歩いて行けない。

 それに月が出ている夜という限定がある。

 タクシーか車じゃないと移動できない。

 これじゃあおまじないはできないよ。



 この日を境に、まじないのことが記される頻度が減り、また学校生活の様子がつづられるようになっていった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る