忍びよる怪異
母の呼ぶ声が聞こえてマミは目が覚めた。体を起こすと室内が暗い。
(わたし、寝ちゃっていたんだ)
ベッドから立ち上がり窓辺へ行って外を見ればすでに日が暮れている。カーテンを引いていると、再び呼ぶ声が聞こえたので返事をして部屋を出た。
キッチンへ行くとテーブルには夕食が用意されていて、みんな先に食べている。寝る前に食べたのでまだ食欲はないと思っていたのに、料理を見ると急におなかがすいてきた。
「いただきまーす」
席に着いて食べ始めた。ごはんを一口食べた途端、嫌なニオイがして慌てて席を立った。ティッシュペーパーを手に取ると、食べたごはんを吐き出した。
「お母さん! ごはん、腐っているよ!」
みんなぽかんとしている。マミが来るのが遅かったので家族は先に食事を始めていて、みんなごはんを食べている。
「なに言ってるんだ? うまいぞ?」
「そうよ。炊いたばかりよ?」
父と母は不思議そうな顔をしている。弟を見ると、おいしそうにごはんを食べている。
「え……? だって、とても
あれ? 今はニオイがしない?」
ごはんを口に入れた瞬間、ものすごい異臭がした。でもそのニオイは消えていて、炊きたてのごはんの香りがしている。不審に思いながらも席に戻り、箸を取って再びごはんを食べてみた。
「うっ!」
ごはんはこれまでに嗅いだことのない悪臭がし、噛んでいないのに粘りのある液体が口の中でねとっと広がった。口を押さえて席を立つと流しへ走った。
(やっぱり腐っているよ! 気持ちが悪いっ)
いら立ちながらマミは口の中の物を吐き出していく。固形物はなくなったが、ねとねとした感触がまだ残っていてニオイがへばりついてる。目に入った乾燥中のコップを手に取ると、蛇口をひねって水を注いだ。急いで水を口に含んだが吐き出した。
「
水道水からも悪臭がする。口に残る水から不快なニオイが漂って鼻につく。
すぐに冷蔵庫へ行き、麦茶を取り出してコップに注いだ。急いで飲むと、また悪臭がして吐き出してしまった。
(なんでよ!? お昼に飲んだときは普通の麦茶だったのに!)
慌てて飲んだからむせてしまい、咳をしていたら今度は咳が止まらなくなってしゃがんだ。
床に四つん這いになって激しい咳を繰り返すマミを見て、家族は様子が変だと気づいた。母親がマミに寄り添い、声をかけながら背中をさすってくれるけど咳はおさまらない。
(喉の奥が熱い! 喉が渇いた! 水が欲しい!)
咳き込んで苦しいなか、喉の奥がひりひりして渇きを覚える。
「み、水っ! 水をちょうだい!!」
怒鳴るように言うと、母が水を持ってきてくれた。奪うようにコップを取って水を飲んだがすぐに吐き出した。
(なんでっ! なんでこんなに
げえげえと水を吐き出すと、母親をにらみつけた。
「ひどいわっ! どうして腐った水を渡したの!?」
「なに言ってるの。いつも飲んでるミネラルウォーターよ。
腐ってなんかいないわ!」
「だって
娘の異常さに気づいた父親がペットボトルに入った水を出してきて、「これを飲め」と渡した。未開封を開けてすぐさま水を飲む。一口飲むと、すぐに吐き出した。
「くさい!
口からもれるニオイが不快なだけでなく、咳をするたびに喉の奥にある異物感が大きくなる。異物を排除しようと咳は自然と激しくなっていき、目に涙が浮かんできた。
苦しむなか、倒れたペットボトルから水がこぼれているのが見えた。
(きれいな水。今はニオイはしない。
でもっ、でも! なんでわたしが飲もうとすると
喉の奥がひりひりとしていて水が飲みたい。それになぜか異様におなかがすいていて何か食べたい。上からいいにおいがしてきたので立ち上がってテーブルを見た。
ごはんと味噌汁のほかに、細かく刻まれたカットサラダと、から揚げが皿にのっている。から揚げのにおいがしてきて口から唾液があふれ出し、たまらずにわしづかみして口に運んだ。
食べた瞬間、口の中に悪臭が広がってむせた。すぐに吐き出したけど、口の中にねばねばがまとわりつく。急いで冷蔵庫へ行き、缶ジュースを開けて飲んだが口の中で別の悪臭が広がった。
飲み物はどれも
マミの目は血走っていて、口から吐き出した液体をたれ流したまま辺りを見回す。目についた食べ物を素手で取って口へ運ぶが、
水が飲みたい
喉が渇いた
喉の熱さをどうにかしたい
おなかがすいた
何か食べたい
空腹で気が狂いそう
水と食べ物が欲しいと探しているうちにマミの意識が遠のいていった。
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