鏡に映る姿


 脱衣所で髪を乾かしていると鏡に映る自分の姿が目に入った。

 ふとパワースポットめぐりを終えたあとに、ファストフード店へ寄ったことを思い出した。



 帰り道で休憩を取りたいと思っていたところ、ジョウがファストフード店に寄って休憩しようと提案してきた。全員が賛成すると、帰り道にあった店に入った。


 入店するとロウはジョウに対して「いつもの」とだけ言うと席を取りに行った。ジョウはマミとカノコのメニューを聞くと、「俺が注文しとくから先に席へ行ってて」と言ってくれた。


 同じ年なのに気後れすることなく、夜の街に溶け込んでいる二人を頼もしく感じると同時に、置いていかれるような感覚を受けた。


(わたしだけ子どもみたいだったわ。

 パワースポットでは暗がりに怯えたり、お店ではどう振る舞っていいかわからなくて、注文するだけなのにどぎまぎしたり……。

 ジョウやロウくんはお店を利用していて知っていたから余裕があるのかな? それとも大人になれば焦ることはなくなるのかな?

 二人だけじゃなく、カノコも大人の女性みたいだったわ)


 ジョウに注文を任せたあと、席へ行く前にカノコとトイレに寄った。個室から出るとカノコが鏡の前で身なりを整えていた。リップを塗って髪を結び直すと、「マミちゃん、変なところないかな?」と言ってゆっくりと回り始めた。

 見慣れた光景なのに、このときは身だしなみを整えている大人の女性に見えた。


(カノコはどんどんかわいくなっていくわ。

 メイクの仕方も慣れているし、服装も派手さはなく、ほどほどなところが大人っぽく見えて、彼女の魅力を引き出していた)


 カノコが全身チェックをお願いするのはいつものことで、これまではそんなことする必要があるのかなと思っていた。でも今は新しい気持ちが芽生えている。


(ジョウにわたしはどう見えているのかしら)


 ドライヤーを止めると鏡へ近づいていき、鏡に映る姿をじっくりと見てみる。メイクをしていたカノコが思い浮かんで、飾り気のない自分の顔が気になってきた。


(高校生になると、みんなメイクしているよね。わたしもしてみようかな……。

 今度、カノコからメイクの仕方を教えてもらおう)


 再びドライヤーを手に取って髪を完全に乾かすと脱衣所を出た。



 シャワーを浴びたことですっかり眠気は取れていた。リビングを見れば大きなテレビの前で父と弟がゲームをしている。巻き込まれたくないので足早にキッチンへ行くと、母親が昼ごはんの支度に取りかかっていた。


「お母さん、お昼ごはんは……そうめんかあ」


「暑いから冷たいのがいいでしょ」


「そして楽だからでしょ?」


 母子おやこの笑い声がキッチンに響く。笑っていたらマミは喉に違和感をもった。


(まだ何か引っかかる。

 虫をのんじゃったせいかしら?)


 パワースポットめぐりをしていたとき、虫のようなものが口に入ってむせたことがあった。異物が詰まっているような感触はないけど、ずっと喉の奥に何かが引っかかっているようで気になっている。会話に支障はないけど喉の渇きがあって不快だ。


 冷蔵庫から麦茶の入ったピッチャーを取り出してコップになみなみと注ぐと一気に飲み干した。さっきより喉から違和感が減ったので、さほど気にせず母親の手伝いに回った。


 テーブルに皿を用意して準備が整うと、家族そろって昼ごはんとなった。

 冷やしそうめんはバトルになる。氷の近くにある冷たいそうめんをめぐって、マミと弟と父親の笑い声が絶えない戦いが続いた。


 昼ごはんを食べ終わるとマミは自分の部屋でくつろぎ始めた。ベッドに寝転んでスマートフォンを見ていたけど、次第にうつらうつらとしてまぶたが落ちていった。


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