青春にホラーはツキモノ?

男子高校生 Jの場合

山で運転していたら


 4か所すべてのパワースポットをめぐり終えたら、帰り道にあるファストフード店へ寄った。


 車で移動する時間が多いからみんな疲れているはずだ。体を伸ばしたいだろうし、トイレ休憩も必要だろう。それに俺も運転で気を張っている。気分転換するのにちょうどよかった。


 少しだけファストフード店で過ごしたら解散という流れになり、待ち合わせをしたコンビニにマミとカノコちゃんを降ろして、最後にロウを家まで送ったところだ。


(このまま帰るのもなんだかな。

 まだ時間はある。親父に車を返す前に練習しておくか)


 家へ帰るつもりだったけどルートを変えた。住宅地を抜けて畑が多いエリアを通り、車通りの少ない山道へと向かう。目指しているのはバイクに乗り始めたときから走りに行ってる山だ。


(休日だから仕事ってことはないだろうけど、出かけるかもしれないからなぁ。午前中に車を返さないと怒られそうだ。

 免許を取っても自由に使える車がないと意味ねえな。早く自分の車が欲しいぜ)


 整然と農作物が並んでいた畑風景が草木が茂る森の景色に変わった。

 車は目的地の山に入り山道を進んでいる。「山」と呼んでるけど島に標高の高い山はない。周囲と比べて高い場所となっていて木が茂っている森があれば勝手に山と呼んでいるだけだ。


 山道は左右に常緑の広葉樹が茂って地面を暗くしている。島の植物は成長が早く、刈ってもすぐに繁茂するから放置されて伸び放題になる。ジャングルのようになる山の中の道は植物が支配している世界だ。


(陽が出てても、やっぱ暗いな。まあ、でも夜よりはマシか)


 木漏れ日が落ちてまだらになっているアスファルトの道を走り、カーブミラーを見て対向車の有無を確認し、ブレーキを使わずにハンドルをうまく操作してカーブを駆け抜ける。


 左側は山の斜面となっていて車道まで雑草がはみ出ている。脇には落ち葉やポイ捨てされたゴミがたまり、道路上に細い枝や小さな落石があることも珍しくない。

 雑草が車に当たらないようサイドに注意し、落ちている枝はなるべくかわして踏まないように運転する。


(近くにバイパスができて、みんなそっちを使うから車が来なくて助かる。運転の練習にはいい場所だぜ。

 でも清掃が入んねえのか車道にゴミが多いんだよなあ)


 同乗者がいる場合はカーエアコンを使うけど、一人のときは窓を開けている。森から鳥の鳴き声や、風で木の葉がこすれる音が聞こえて清々しい。体に当たる風はひんやりとしており、木や土の香りがする。


(森の中は音が響く。市街だと自然の音とは縁がないからココは落ち着くぜ。空気も違っていて気分がいい)


 街を走るときは窓を閉め切って音楽を大きめに流して楽しむ。でも山や海へ行くときは窓を全開にし、聞きなれない動物の声や風が奏でる音をBGM代わりにして、ドライブテクニックを磨く。


 車は軽快に山道を登り切って下りに入った。


(こっからが楽しいんだよなっ)


 傾斜に合わせて少しずつスピードが上がっていく。登りのときよりハンドルを握る手に力が入り、最初のカーブが直前にきてハンドル操作に集中した。


 左右の景色が速く流れていき、窓から入ってきた風が肌に強く当たる。カーブの先が見えないままスピードを緩めずに入っていき、タイヤが嫌な音をたてる。そのまま駆け抜け、次のカーブへ向かった。


 山はバイクで何度も走ってて道の形状を知り尽くしてる。傾斜具合やカーブの角度は変わらなくても、二輪と四輪では車体の大きさも操作も異なってくる。


(うーん……。当たり前だけどバイクとは感覚が違うなあ)


 カーブのたびにタイヤが鳴って、遠心力で持っていかれそうになるのをコントロールしていく。山頂から下ってきて山の中腹のカーブに入った瞬間、道路上に緑色が映った。


「うわっ!」


 反射的にハンドルを切ると、スピードが出ていた車はスピンした。


「やべぇ!」


 制御を失った車は路面をすべっていく。

 景色が高速で動いて方向感覚を失っていくなか、鮮やかな緑色が視界に映った。とっさに、ぶつかってしまったのか気になって目で追う。


(ぶつかったような衝撃はなかった!

 場所は……動いていない!

 よかった、うまくよけられたみてえだ!)


 安心したのもつかの間、車は対向車線へ侵入して、そのままスピンしていく。


 がくんと車体が揺れて前方へ傾いたと感じたら、走っていた道が途切れていた。


(落ちる!)


 車道から飛び出して森へ落下している景色が見えたときから、時間の流れが遅くなったように感じた。


 ハンドルを握ったまま、視界に映る光景をただ見ている。


 車の正面に見えている木の幹がどんどん近づいている。ぶつかるとわかっているけど何か対処できるわけでもない。危ないとわかっているのに、どこか冷静で他人事のように観察している。


(スピードが落ちねえ。このままぶつかるとヤバそうだ。親父に怒鳴られるのは確実だな)


 幹に車が当たると強い衝撃を受けた。

 ぼんっと音がして視界がふさがれ、体に何かが強く当たったところで意識が飛んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る