祠(三)


 マミとカノコは砂浜から陸に向かって歩き、境界にある雑木林を目指す。


 海沿いには防風林が植わっていることが多い。訪れているビーチも海辺と陸地を分けるように背の高い木が立ち並んでいて、うっそうとした雑木林となっている。


 雑木林の中にほこらはあるようだが、中へ入れるようなちゃんとした道は見当たらない。在るのは人が出入りしてできた草木の隙間と、踏み固められてくぼんだ道が砂浜から続いているだけだ。


 自然にできた道を通って雑木林の前に着くと、ジョウから借りたライトで中を照らしてみた。

 すぐ先は雑草が刈られて開けている。奥にライトを向けると大きな岩が映し出された。岩の周辺は草木が茂るだけでどこにも道はなく、行き止まりになっているようだ。


「うーん、ちょっと不気味だわ。

 空間はあるけど……あっ! 祠があったわ!」


 ライトを動かしていると大岩の下に人工物が見え、すぐに祠だと気づいた。ツタがからみついて雑草に覆われそうになっているが、コンクリート製の壁と平らな屋根が見えている。


 マミとカノコは顔を見合わせると笑顔になり、同時に「行こう!」と言って雑木林の中へ入っていった。


 祠までは草木がなく開けた空間になっているけど舗装されていない地面だ。岩石がむき出しの部分があり、太い木の根が盛り上がっているところもあって足場がよくない。そのうえ、広葉樹に囲まれているから砂浜と比べると暗い。


 マミとカノコは、はやる気持ちを抑えて足元に気をつけながら祠へ近づいていく。近くまできて祠の全体像が見えてきた。


「最後のパワースポットは完全に御嶽ウタキだわ!」


やしろがあったとしても、神社で見る木製の小さいのを想像していたから、予想外に大きくてびっくり」


 祠は岩石の上をコンクリートで固めて土台をつくり、ならした面の上に建てられていた。小さな階段が数段設けられていて、やや高い位置に鎮座している。


「マミちゃん、まじないに付き合ってくれてありがとう!

 全部のパワースポットに行けてとても嬉しいっ。本当にありがとう!」


「いいって。わたしもパワースポットに行ってみたかったし。

 さあ、カノコ、願い事をしてまじないを完成させよう!」


「うんっ」


 階段を上がって祠に着くと、大人三人ほどが座れる空間が設けられていた。

 祠自体は縦横1メートルほどの大きさで「コ」の字形をしており、正面が開かれていて中には古そうな石と香炉が置かれている。板状の屋根を乗せた簡素な造りで、すべてコンクリート製だ。


 祠の前でしゃがむとマミとカノコは手を合わせる。カノコは『チチヌユまじない』をするためにパワースポットめぐりをしてきたが、マミは願い事がなかったので付き合っているだけだ。


(カノコに付き合って祈願するふりをしてきたけど、わたしも何かお願いすればよかったかしら?

 ジョウともっと仲良くなれたら……とか。

 最後のパワースポットに来て今さらだよね)


 マミは目をつぶったまま苦笑する。隣で服がすれる音がしてカノコが声をかけてきた。


「マミちゃん、付き合ってくれてありがとう。

 蚊がいるみたいだから戻ろう?」


 目を開けるとカノコが辺りを見ながら腕をいている。マミも立ち上がって周囲に注意を向けると、虫の羽音が小さく聞こえている。用事は済んだので長居は無用だ。

 二人は立ち去る前に祠に一礼して、来た道をたどって林の外を目指した。


 雑木林から砂浜に戻ると、ジョウとロウが波打ち際で話をしている姿が見えた。二人のもとへ向かっていると、遠くの海上が光ってすぐに大きな音が鳴った。


「「きゃ―――!!」」


 雷に驚いたマミとカノコはその場にしゃがみ込む。

 空がまぶしく光ると、光った瞬間に分厚い雲が見えて、海から雨雲が近づいてきてるのがわかった。湿り気を帯びた風が吹いており雨になりそうだ。


「やばいな、雨が降るかも。早く退散しようぜ」


 ジョウがうながして走りだすと、みんな車がある場所へ向かって走りだした。


 さっきまで吹いていたやさしい風は海から流れてきた風にかき消される。風を受けて白波が立ち、黒い海が荒れ始めた。


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