祠(二)


 波打ち際から陸まで緩やかな傾斜の砂地が続いている。サンゴや貝殻からできた白い砂浜は、やわらかい月明りを反射して明るく感じる。


 砂粒だけに見えるけど、砕けて小さくなる前のサンゴの欠片かけらがあったり、きれいな形状を残したままの貝殻が転がっていたりする。砂の上はふだん聞きなれない足音がするのでなんだか新鮮だ。


「小さいころはよく海へ行っていたけど、いつの間にか行かなくなったわ」


「わたしも」


「やっぱり日焼けが怖いもんね」


「ふふふっ」


 マミとカノコは4つ目のパワースポットで願い事をする場所となるほこらへ向かいながらおしゃべりを楽しむ。


 島は日差しが強く、すぐに日焼けするので褐色の肌の人が多い。年ごろになると女子は気にし始め、日焼けしないように徹底的に対策する。


 マミは中学まで部活に勤しんでいたけど高校では帰宅部になった。日焼けが気になったこともあるが、ずっと部活に打ち込んできたので、今度は部活以外で高校生活を楽しみたかったからだ。


 高校1年は新鮮だった。同級生だけで遠出をして買い物に行ったり、カラオケにボウリングをしたりと、これまで経験しなかったことができて遊びの幅が広がった。また他校の友人もできて世界が広がったように感じた。


 2年になると変化が出てきた。友人に恋人ができて女同士で遊ぶ機会が減っていった。それでも休み時間の女子トークはいつもどおりで学校は楽しい。ところが本格的な進路相談が始まってからは学校へ行くのが少し嫌になってきた。


 進学や就職に取り組み始める学生が増え、受験のために塾へ通い始めたり進学先を探すようになってきた。マミは周りに合わせて勉強するけど窮屈でつまらないと感じていた。


 3年になった現在、みんな 高校生活 よりも将来のことばかり気にして、遊びに誘っても乗ってこない。そんな友人たちと過ごしていると、いつからなのか朝起きたときに息苦しさを感じるようになっていた。


 目覚めて一日が始まると思っただけで気持ちが晴れなくて体が重い。それでも体を起こして学校へ行き、学校では明るく振る舞ってなんでもないように過ごす。


 学校へ行くたびに最後の思い出をつくりたいと思っているのに、友人たちは学校見学や勉強に励んでいるので言葉に出しにくい。みんなが真剣に進路を考えているのに、ちゃんと向き合えていないマミは疎外感と焦燥感が大きくなっていた。


 そんなときにカノコから誘いがきた。そして『チチヌユまじない』のことを知った。まじない自体に興味はないけど、カノコと高校の思い出をつくるチャンスかもしれない。

 思い立ったマミはカノコとパワースポットめぐりを計画して今に至っている。


 砂浜を歩きながら深呼吸をする。


(家でも学校でも進路のことばかり。とくに親がうるさくて息が詰まりそうだった。久しぶりにゆっくり息ができた気がするわ。

 それにカノコと一緒に出かけるのも久しぶりね。変わってなくて嬉しい)


 高校3年になってカノコとは別クラスとなり一緒にいる時間が減った。薄情な自分に怒っているかもと心配していたけど、カノコの態度は変わらないどころか、恋していることを打ち明けてくれた。


(カノコとはずっと今のような関係でいたいな)


 変わっていくクラスメートを見て、ずっと不安に思っていたけど今は気持ちが穏やかだ。思いをめぐらせていたら風を感じた。


(海では風がずっと吹いているんだ)


 マミは不安だった物事をすべて忘れて夜の海辺を楽しんでいる。カノコと語らいながらまじないの最終場所となる祠へと向かっていく。


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