人気のビーチ
祠(一)
パワースポットめぐりを始めてからずっとジョウが運転している。けっこうな距離を走っているのに運転は安定していて、後部席にいるマミやカノコは安心してドライブを楽しんでいる。
車が走っている道は昼間だと海が見えるドライブコースとして人気があるところだ。でも今は自慢の眺望は暗くて1色に近く、車道が広くて走りやすいのが取りえとなっている。
最後のパワースポットは観光客にも人気があるビーチで、夏季は利用者であふれかえっている。マミも小さいころに、このビーチを訪れた記憶がある。
(パワースポットがビーチってわかったときはびっくりしたわ。
シーズン中は、昼はマリンスポーツ、夜はバーベキューと24時間営業しているから人気があるんだよね。
ビーチでは家族や親戚とバーベキューをしたことがある楽しい場所だったから、なんか意外だわ)
思い出に浸っているのはマミだけではないようで、カノコも遠い目をして車の進行方向を見ている。四人が乗る車は地元の人しか知らないような抜け道に入り、民家が集まっているエリアを通っていく。
小さな住宅地を抜けると畑が広がる道に入った。
畑の中の道を走り続けると、遠くに高い木が並んで立っているのが見えて、海に近づいているのがわかる。高い木のもとへ着くと先が海だとわかる堤防が見え、堤防と並行している道に入って車を走らせ始めた。
道が突き当たりになる前にロウが口を開いた。
「ジョウ、木と木の間にスペースがある。そこに車を止めよう」
「了解」
アスファルト舗装された道の脇に、ちょうど車1台分の空間があったので車を止めた。すぐ横には防風林が立っていて波の音が聞こえている。木の間から堤防が見えていて海はすぐそこだ。
「カノコ、ついに
「うんっ。マミちゃん、本当にありがとう」
ひそひそ声で話し、二人で手を合わせて感動を共有する。
ジョウとロウには秘密にしているが、パワースポットめぐりの目的は『チチヌユ
「カノコ、砂浜を散歩するふりをして願い事をする場所へ行こう?」
「うん」
内緒話が終わると、タイミングよくジョウが「んじゃ、行こうぜ~」と声をかけてきたので四人は車を降りた。
車の横にある防風林を歩いて抜けると堤防にぶつかった。低い堤防の先には夜の海が広がっていて波音が聞こえている。そのまま堤防に沿って歩き、切れ目から浜辺に出た。
島はサンゴ礁の海だ。照りつける太陽の下だと、海底の白い砂がオーシャンブルーをつくり、カラフルな熱帯魚が泳ぐ姿も確認できるほど透明度が高い。何時間でも眺めていられる美しい海なのに、夜になると様相が変わる。
(夜は闇が広がっている。海は真っ黒で底が見えないわ。
わたしが知っている海じゃない)
ビーチは夏季だと、若者がビールを片手にバーベキューしたり、テントを張ってアウトドアを楽しむ親子がいたりして一晩中にぎわう。活気のあるビーチなのにシーズンが終わると
(昼間と同じように波が打ち寄せているだけなのに、どうしてこうも怖いの……。あっ、カノコが怖がっているかも!)
夜の海にのまれそうになっていたところ、カノコのことが心配になって様子を見ると、意外にも平気そうだ。
(カノコはホラーやオカルトが好きだし、一緒に映画を観ているときも驚かないもんね。夜の海はわたしには不気味に思えても、カノコにはあまり怖くないのかもしれないわ)
尻込みしかけていたが、親友が平気そうなのを見て少し恐怖がやわらぐ。
ビーチは長い砂浜になっていて端から端まで距離がある。4つ目のパワースポットの願い事をする場所はビーチの端にあり、マリンレジャーを楽しむメインのエリアからだいぶ離れている。レジャー施設が付近にないので観光客には見向きもされないエリアだ。
「なんだ~? マミはやけに静かだな。怖いのか~?」
「そっ、そんなことないわよ!」
ジョウに見透かされたような気がして反論するけど、声にいつもの明るさがない。
「隠さなくていいぞ~」
「なによ! あっ、待ちなさい!」
ジョウは茶化すように言うと走りだしたので、マミは反射的に追いかけた。後ろから「マミちゃん、暗いから足元気をつけて!」とカノコの声が聞こえたので手を振って応えた。
安定しない砂の上をジョウは軽快に走っていく。慣れない砂浜に足をとられながら追いかけていると、堤防から離れたところでジョウは走るのをやめた。マミが追いつくと声をかけた。
「こらっ!」
マミはジョウの袖をつかんだけど反応がない。不思議に思ってジョウを見ると笑顔だ。
「これでカノコちゃんは話しやすくなるんじゃないか?」
「ジョウ……」
「最後のパワスポ
「え……?」
「学校で流行っている、願い事がかなうパワスポめぐりをしてるんだろう?」
「知っていたの!?」
「クラスの女子が話しているのを聞いてたからな~。
はじめは気づかなかったけど、マミが渡してきた地図で思い出して確定した」
「ロウくんは知ってるの!?」
「知らないと思うぜ」
「よ、よかった」
ジョウがライトをつけて歩き始めたのでマミは隣に付いた。
ドライブの目的が
砂浜は遮る物がなく、月明かりだけで景色が見えている。ライトがなくても十分明るいが砂の上は歩きにくく、まごついてしまう。
(また歩調を合わせてくれている……。嬉しい)
ジョウは何も言わずに歩いてて、どこかへリードしているようだ。
すぐ隣にいるジョウにどきどきしている。学校ではマミによくちょっかいを出してくるから、ジョウは弟のように感じていた。でももう弟として見ることはできない。
(なんだか頼りがいがあって――)
「探している
見とれているとジョウがマミに話しかけてきた。どきっとしたけど、冷静なふりをしてジョウが指さしている先を見た。
ジョウが指さす方向には木々が茂っている。海沿いによくある雑木林だが、林の中の木の間隔が不自然だ。通常なら木や雑草がうっそうと茂って闇ができるのに、薄い月明かりが見えていて、どうやら空間があるようだ。
「砂浜から林に入れる細い道がある。そこを通っていくと祠がある場所に着くよ」
「あ、ありがとう」
マミはおもむろにジョウを見た。じっと横顔を見ていたらジョウが振り向いたので慌てて視線をそらした。
(あれ? わ、わたし、何を意識してるんだろう)
胸がどきどきと速く打っていて顔がほてっている気がする。ジョウの隣にいるのがなんだか照れくさくなってきた。
「カノコを呼んでくる!」
「はいよ~。俺はロウと話しとくわ」
落ち着かない気持ちをごまかすようにジョウのそばから離れると、カノコのほうへ走っていった。
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