獅子(二)
住宅地の道路は民家から出入りする車でわりと交通量が多い。でも今は遅い時間とあって往来する車は少なくて静かだ。
道には等間隔で街灯が立ち、遠くにはコンビニと思われる明るい光が見えている。並んで立つ家の窓から明かりがもれ、玄関灯も照っているから闇の部分は少ない。
ジョウが運転する車はパワースポットから少し離れた川沿いの道路を走り、広めの路肩を見つけて車を止めた。
四人が車から降りてきた。
ジョウはすぐにふんふんと鼻を鳴らして嗅ぎ始めた。
「海が近いみたいだな? 海辺のにおいがするぞ」
「すぐ先は海になってる」
「そうなんだ、海が近いんだね」
ジョウとロウの会話にカノコが加わった。人見知りする彼女が積極的に会話へ入るのは珍しいことだ。カノコをよく知るマミは、懸命に接点をつくろうとしている姿に応援したくなる。
(ああっ、もうっ!
ロウくん、鈍いよ! カノコに気づいて! ずっとロウくんのこと見ているよっ)
はたから見ると、カノコが恋していると明らかなのにどうやらロウは気づいていない。積極的な行動に出れない
(カノコに「もっとロウくんに声をかけて」と言いたい!
ロウくんに「あなたを好きな子が近くにいますよ」と伝えたい!
でも恋の場合、よかれと思ってしたことがおせっかいになることがあるわ。我慢しなきゃ)
言葉に出せない分、きっかけをつくってあげようと、3つ目のパワースポットへ向かう間、二人が一緒になれる方法はないかと思案する。
「カノコちゃん、俺ら石彫りの獅子がどんなのかわかんないから、ロウに教えてやってよ。ほいでロウ、ナビよろしく~」
「えっ!?」
「悪いけど、よろしく」
「そ、そんな。ロウくんは悪くないよ。ドライブをお願いしたのはわたしたちなんだし」
(ジョウ! よくやったー!!)
またしてもジョウから助け船があって悩みはさくっと解決した。マミにはジョウが天使のように映り、再び胸の中で感謝した。
おもむろにカノコを見れば、好きな人のそばにいて頬がピンクに染まっている。喜んでいるのがマミにも伝わってきて、こそっとガッツポーズを取った。
(くうぅ~! カノコ、嬉しそう。
恋する乙女ってやっぱりかわいいわ。恋愛ドラマのヒロインを見ているようで応援したくなる!)
目の前で展開されていく恋の物語がどうなるのかと、少し楽しんでいることに後ろめたい気はしたけど、全力で応援しようと改めて決意した。
紙の地図を頼りに、ロウとカノコのペアが3つ目のパワースポットを目指して歩き始めた。
パワースポットは住宅地の中にあり、電柱にはところどころ街灯が設置されている。道は明るく、家々から人のいる気配がして安心できる。ライトの出番はなく、足元に注意する必要がなくなって地図に集中している。
地図を見ながら歩くロウとカノコの距離が近くなっている。二人から少し距離をおいてついていくマミは、もっとくっついてと念を送る。
「にらんでいるみたいで
カノコちゃんを応援したいなら逆効果だぜ?」
マミは驚いて振り向いた。ジョウは頭の後ろで手を組み、にやにやと笑っている。
「もしかして……わたしが二人をくっつけようとしてるの……気づいてる?」
「まあな~」
マミは他人にお膳立てされるとあまり気分がよくないだろうと考え、ロウと接点をもたせようと計画してることをカノコに言っていないし、もちろんロウにも言っていない。
「もしかしてロウくんも気づいてる!?」
「あいつは色恋に鈍いから気づいてないよ」
カノコとロウはマミの計画に気づいていないようなので胸をなでおろしたけど、すぐに不安がよぎった。
(でもジョウがわかったってことは二人も気づくかも。
よけいなことはしないほうがいいかしら……?)
「ロウは鈍感だし、カノコちゃんはあまり積極的じゃないみたいだから、いいんじゃねえの?」
考えを読み取ってフォローしたような言葉にどきっとした。隣を歩いているジョウの様子をうかがうと、穏やかな表情でロウとカノコを見ている。
(やさしい顔をしてる。本当に応援しているんだ)
学校でのジョウは明るくてお調子者というイメージがあったけどそれだけじゃない。初めて見た別の顔に胸の鼓動がまた速くなった。
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