路傍の守

獅子(一)


 夜の町を車が走っている。


 これまで訪れてきたパワースポットは自然が多いところだった。1つ目は山頂にある城跡で周囲は森といったような場所、2つ目は畑が広がるエリアにあった湧水で、どちらも近くに民家はなく自然に囲まれていた。


 現在3つ目へ向かっていて、マミから渡された地図によるとパワースポットは住宅地の中にある。



「街灯が多くて走りやすいぜ。

 ずっと暗いところばっかだったから、明かりがあると安心するよな」


「暗いところが怖いの?

 やっぱりジョウはホラー系は苦手なんじゃないの~?」


 茶々を入れてきたのは後部席にいるマミだ。シートの間から顔を出して、にやにやと笑っている。すぐにジョウが反論した。


「怖いなんて言ってないだろう!」


「はい、はい」


 二人のやり取りに動じることなくロウはナビを続けている。預かっている地図に目を移し、スマートフォンの地図アプリに表示されている道と見比べていく。気になる箇所があったようで不思議そうに聞いてきた。


「丸印が付いてる場所は地図アプリだと施設名がない。

 ここに何かあるようには見えないけど」


「あの……今度のパワースポットは石彫りの獅子なの」


 後部席からカノコがロウの疑問に答えると、ジョウが会話に入ってきた。


「へぇ! 獅子がパワースポットって面白い。どんな姿してんのかな?」


「たぶん……狛犬とかシーサーみたいなものがあると思う」


「絶対、見たい! 誰が早く獅子を見つけるか競争しようぜ」


「やめておけ」


「なんでだよ」


「暗いんだ。転んで怪我したらどうする?」


「ロウくんの言うとおりよ! 競争なんてしないから」


「マミはロウの味方かよ~」


「ジョウの子どもじみた遊びに付き合ってられないわ~」


「ちぇ~」


 ジョウが話を振っていくのがうまくてマミは助かっている。


(ロウくんとは同じクラスになったことがないから、どう話していいのかわたし自身迷っていた。

 それにロウくんはあまり話さないタイプだから、どうやってカノコと接点をつくろうか悩んでいたけど、ジョウがみんなをつなげてくれる。ジョウがいてくれて心強いわ)


 ジョウはテストの成績は平均点あたりで上へ行ったり下へ落ちたりし、遅刻や欠席もあって優等生とはいえない。マミたちが通う高校は地味な学生が多く、そんな中で明るい髪にピアスをしてるジョウは近寄りにくい印象をもつ。ところが気さくでムードメーカー的な存在なのでわりと人気がある。


(ジョウっていいやつよね。人をよく見ていて気配りができている)


 ジョウはただの男友達のはずなのに、どきどきすることがある。ジョウのことをもっと知りたくて見ていたいけど、見ていることを気づかれるのは恥ずかしい。なぜこんなにもジョウが気になるんだろうと、自分の中にある想いの対処法がわからなくてとまどう。



 四人が乗った車はスーパーやホームセンター、飲食店などがあるにぎやかな道を走ってきたが、パワースポットが近づくと道を折れてベッドタウンに入った。


「ジョウ、もう少しで目的地に着く。

 でも獅子の周辺は家ばかりで駐車スペースがない」


「ベッドタウンで家が集まってるところだから当然だよな~。

 どこか邪魔にならない場所に止めて歩いていこうぜ」


「賛成だ。川沿いの道路なら迷惑かからないと思う。そこに車を止めよう」


「はいよ」


 ロウが地図アプリを見ながら案内していく。二人の会話を聞いていたマミは質問した。


「なんか慣れているね」


「俺ら仲がいいからな。阿吽あうんの仲よ。もうラブラブ。

 だよな? ロウ♡」


「気色悪い」


「まあ、あなたったら。照れ屋さんなんだからっ♡」


「やめろ」


 ロウがつれない態度をとってもジョウがうまく茶化していくから後部席から笑いが起こる。これまで遠慮していたカノコも楽しそうにしている。


「カノコちゃん、楽しそうだね~」


「あ、笑ってしまってごめんなさい。二人が仲がいいのが楽しくて」


 案の定、ジョウがカノコに話を振ってくれたので、マミはほっこりしながら会話に加わっていく。


「わかる~。見ていて楽しいわ。漫才するなら息ぴったり(笑)」


「やぁん♡ 嬉しいわぁ。

 あたしたち、やっぱりお似合いじゃなぁ~い?」


「…………」


(嫌な空気をつくらず場を和ませてくれる。ジョウのこういうところっていいよね)


「ねっ、マミちゃん。ジョウくんは一緒にいると楽しい人だね」


「うんっ」


 カノコの耳打ちにマミはまた自分が褒められたみたいで嬉しくなっていた。


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