「ちょっとショッピングセンターに寄ってくぞ」

さりげない気配りにドキリ


 免許を取ったばかりの高校生がパワースポットめぐりをしている。4か所めぐる予定をしていて、最初に山中にある城跡を訪れ、先ほど畑エリアにあった湧水に行ってきたところだ。


(2か所ともわたしたち以外は誰もいない寂しい場所だったわ)


 マミはパワースポットを訪れて、初めて人工の明かりがない夜を見た。経験したことがない暗闇を知り、暗がりを怖いと感じていたので車に戻れてほっとしている。


 窓の外を見ると車の往来が激しい道を走っていて、道路沿いには商業施設や飲食店が立ち並んでいる。遅い時間なのに店は営業中のところが多い。


(明かりがあるところには人がいる。明るいだけでこんなに安心するんだ)


 人の気配が感じられる市街に入ったことでようやく落ち着き、外の様子を楽しむ余裕もでてきた。


 マミはまだ免許を持っていないので遠出をするときは親の力を借りる。同じ年のジョウが車を自在に操って、自由に移動できることに感心している。


(免許取ったばかりというのにジョウは運転に慣れている。あちこち行っていろんなものを見てきているのね。

 なんかちょっと遠い存在に感じるわ)


 高校3年になると車の免許を取る子がでてきて、嫌でも進路を意識してしまう。進学または就職のどちらにしても将来について考えなければならなくなる。


 学生を楽しみたいのに、親が、学校が、周りが大人になれとせかす。

 受験勉強する子、就職活動を始める子、取り組む内容はそれぞれ異なるけど、みんな将来を見据えて行動している。


(足並みをそろえないと置いていかれるのはわかっている。でもまだ考えたくない。わたしは今のまま……高校生のままでいたい。

 パワースポットめぐりはカノコのためにって実行したけど……本当は……現状から逃げたいのかも)


 親友の恋を手助けしたいという想いはもちろんある。でもそれを口実にして、自分のためにパワースポットめぐりをしているんじゃないのかと後ろめたさを感じる。


(……わたしって嫌なやつ……)


 一度思ってしまうと、自己嫌悪と焦燥感が急に襲ってきて、みんなといるのに孤独を感じてきた。


(また勝手に暗くなっている。わたしの悪いところだわ。

 弱いところを知られるのはイヤ! なんでもないフリをしなきゃ)


 不安が顔に出ないように意識して笑顔をつくり、明るく振る舞って気持ちを奮い立たせる。マミは次々と話を振っていき、ドライブが楽しいものとなるように努めていた。




 3つ目のパワースポットへ向かっていたはずなのに道をそれている。

 信号で停止している車はウインカーを出していて、曲がる先はショッピングセンターの入り口だ。不思議に思ったマミが質問した。


「なんでショッピングセンター? 用事でもあるの?」


「小便したいんだよ」


「トイレに行きたいって言えばいいでしょ! デリカシーないわね!」


 マミが運転席のシートをばしばしとたたくと、ジョウがけらけらと笑っている。


 ドライブに出てから休憩を取っていなかった。そろそろトイレへ行きたいと思っていたのでタイミングがいい。


(ショッピングセンターに寄ってくれて助かるわ。店内は明るいし、お客さんも大勢いる。顧客層が広くて近い年齢もいるから安心できるもの)


 車がショッピングセンターの敷地に入ったところで、ふと疑問をもった。


「このショッピングセンターって、次のパワースポットへ行く道からちょっと外れていない? 途中にあるコンビニでもよかったんじゃない?

 なんで遠回りになるところを選んだの?」


「トイレはきれいなほうがいいからな~。それに休憩しやすいだろ?」


(男子はトイレはあまり気にしないはず。わたしたちに気を使っている?)


 ジョウの言葉は雑だけど、タイミングを見計らって休憩を取ったような気がして、マミはまた鼓動が速くなった。


 ショッピングセンターは1時間もしないうちに営業終了となるので駐車場はがらがらだ。次々と出て行く車とすれ違いながら店の入り口に近い場所に車を止めた。


「わ、わたし、こんな遅い時間にショッピングセンターに来たことがないわ」


「わたしも」


 カノコが不安げな声で話してきたのでマミも正直に答える。ジョウとロウが車から出たのでマミとカノコも車を降りた。


 マミは遅い時間に外出していることにスリルを感じている。

 夜に同級生だけであまり知らない土地にいるのは初めてのことで、なんだか悪いことをしているような気分だ。


「ねえ、マミちゃん、どきどきするね」


「わたしは、わくわくが大きいかな」


 女子トークを続けるマミの目は無意識のうちにジョウを追っている。

 ジョウとロウは慣れたように店内を歩いていく。カノコと一緒に後ろをついていくマミにはジョウの背中が大きく頼もしいものに見える。


「あっちにアイスクリーム店があるだろ?

 その前にベンチがあるから15分後に集合としようぜ」


 ジョウが待ち合わせの時間を指定して男子と女子で分かれた。ジョウがロウと楽しげに話しながら離れていくのを見て、マミはもやっとした。


(ジョウはロウくんと話しているとき、とても楽しそう。何を話しているんだろう。ロウくんがちょっとうらやましい……。って、わたし、なに考えてるの!)


 これまで感じてなかった想いがでてきて自分の感情がよくわからない。カノコが隣で何か話していたけどあまり頭に入ってこなくて、適当に相づちを打ってごまかしていた。






  ◇


「は―――い、店長、ちょ~っと、ストーップ!」


 店長が思い出しながら話していたところ、バイトの犬巻いぬまきが手をあげて待ったをかけた。


「んあ?」


「店長~、怖くないっス!」


「は?」


「ホラーとは『幽霊、バア―――ン!』『妖怪、ドロロロ!』など、背筋がゾワアァーとなる恐怖が必要でしょう!」


 手ぶりを入れて話してきた犬巻は、露骨に「面白くない!」と顔に出している。


「やれやれ……」


「えっ、なんスか、そのため息!」


「映画やドラマなどのエンターテインメントと一緒にすんなよ」


「だってだいたいそうじゃないですか。

 心霊スポット 心スポ 行った、そして幽霊見た! ラストは襲われた!! っていう展開になるじゃないですか」


「結果を見ればそうかもな。でも実際は何が起きているのかわからないことが多いんだぜ」


「へっ?」


「犬巻が話せと言ったから話してるし、心霊スポットめぐりをしたいというから、参考になりそうな話を選んだんだけど――飽きたんなら、もう話さなくてもいいか?」


「待ってくださいよ~! そんなこと言われたら気になるじゃないですか!」


 ひらひらと手を振って去ろうとした店長に、すかさず犬巻が抱きついた。背中に顔を押しつけると、ぐりぐりぐりっと力強くこすりつける。


「だあぁ! やめろっ! しがみつくな!」


「続きをお願いしますぅ」


 犬巻の顔面に手を当てて引きはがそうとするけど、腰に手を回してがっちりホールドしている。なかなか離れないので店長がさらに力を込めると、犬巻の鼻息が荒くなり、よけいに締め付けがきつくなった。


「わ、わかったから! 離れろっ」


「はーい。では続きをお願いします!」


 客が来たら仕事と言って逃げられるけど、雨が降り始めているせいか客が来ない。

 回避不可能と悟った店長は、抱きつかれた拍子に立った鳥肌をさすりながら続きを話し始めた。


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