向けられた敵意(三)
ドアが閉じた音がして飛び起きた。運転席を見ると姉貴が戻ってきている。
「あ、起こしちゃった」
謝りながらエンジンをかけるとエアコンがついた。俺が起きないよう気を使っていたようだが遠慮はなくなって、運転席から出ると後部席側へ回って買い物袋をあさり始めた。
幽霊に囲まれていたことを思い出して慌てて窓を見た。
(さっきまで車の周りにいた幽霊が消えている)
すべての車の窓を見てみたが幽霊の姿はどこにもない。山を登っているときから聞こえていた雑踏にいるような音もいつの間にか消えていて、頭痛がおさまっていることに気がついた。
(吐き気がするくらいひどい頭痛だったから幻覚でも見てたのか?)
現状がいまいちわからず不思議に思っていると、運転席に戻ってきた姉貴が「ほい」とペットボトルを渡してきた。受け取ると水で、一口飲んでかなり喉が渇いていたことに気づいた。一気飲みするいきおいで水を飲むと気分が落ち着いた。
「気分が悪そうだったけど、大丈夫か?」
「ん……。もう平気だ。
城跡まで行ってきたのか?」
「うんっ。さっ、次のパワースポットに行こう!
ロウ、ナビの設定よろしくゥ!」
姉貴は城跡で何をしてきたのか、俺の身に何が起きていたのか――。
質問や疑問がたくさんあったのに、テンションが高くなっている姉貴を見て気がそがれた。
「はーやーく、はーやーくーぅ!」と変なテンポをつけてせかすので次のパワースポットの湧水をカーナビに入力していく。設定が済むと再びドライブが始まった。
「ふん、ふーふふ、ふんふん、ふん~」
FMラジオから流れている曲に合わせてハミングしてるけど音程が合っていない。
(歌い始めるジョウよりはマシだけど、ずれが気になるからやめてほしいぜ)
ジョウを思い出して連絡してなかったことが気になってきた。せめてメッセージでも送ろうかと考えたが、心配かけそうなので全部終わってから連絡することにし、目の前にある問題の解決に入る。
(ハミングをやめろと直球で言うと問答になる。
ここは話題を振ろう)
「城跡で何をしたんだ?」
「ほん?」
「祭祀場跡に行ったんだろう? 何をしたんだ?」
「み―― 見てきただけだよ~」
「行って帰ってくるだけだとあんなに時間はかからない。
何してたんだ?」
「えっと……。しゃ、写真を撮っていた!
石門に石段、城壁が相変わらず見事で、機械がない時代にむかしの人はよくつくったよなと感動したよ。
いや~、城跡にはいろんな遺構があるんだねえ」
(隠し事が下手すぎるぜ)
口調は変わるし動揺するから城跡で何かしてきたことはすぐにわかった。追及したいけど運転中に注意力が散漫になるのはまずい。
どうしたものかと考えて黙っていたところ、プレッシャーを感じたのか姉貴が話しだした。
「さっきの城跡は観光客にも知られてて、城壁が修復されてたり散策路がつくられてきれいに整備されているけど、たいていの
あんなに大きくないし、門や壁は崩れてて森の中に埋もれそうになっている
「なんでそんなこと知ってる?」
「史跡めぐりをしてるときに、
「いつそんなことしてるんだ?」
「え……? あっ!?
えぇっと……そのっ……へへっ」
(こいつ、島に帰ってきたときに、こっそりドライブしているな!?)
じ―――っと見ていたら姉貴が焦りだした。どうやってこの場を切り抜けようか思考をめぐらせているようだ。
「ろ、ロウ、今日は月明かりがきれいなんだぞっ」
(話を切り上げる方向にもってきたか)
素直に教えてくれないのはイラつくけど、あわあわしてるところが面白くて、あとでゆっくり聞きだすことにした。
言われたとおり外を見ると空が薄ぼんやりとしている。月明かりがあるおかげで雲も見えていて、ちょうど月が顔を出した。
「満月に近いから明るい」
嬉しそうに言ってるのを聞きながら月を見上げていた。
カーラジオはローカル局にチャンネルを合わせており、姉貴は地元ネタを聞いて楽しんでいる。久々に方言を聞いたと言って嬉しそうに笑って話を振ってきたり、流れてくる音楽に合わせてハミングしたりと、ラジオに夢中だ。
(そういえば久しぶりに島に帰ってきたんだよな)
長い間会っていなくても、ふだんどおりのやり取りとなるから、姉貴がローカル局のラジオを聞くのも久しぶりというのを忘れていた。
言いたいことはたくさんあるけど、楽しそうに聞いているからそのまま付き合った。
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