城跡の神霊
向けられた敵意(一)
最初のパワースポットへ向かう道中は順調だった。ところが城跡がある山の近くまで来ると、こめかみに痛みを感じた。これまで頭痛を経験したことがなかったので、あまり気にせずにいた。
山道の入り口まで来たら突然、キ―――ンという高音が聞こえ始めて、車が山道に入るとさっきより頭痛がひどくなった。
(なんだ? 頭が
でもこの山ではこれまで頭痛なんてしなかったぞ?)
城跡は山頂にあり、道路は広葉樹の森を切り開いたような一本道だ。以前となんら変わらない山なのに登るにしたがって体調が悪くなる。向かう先から怒りのような空気を感じて攻撃されてる気がする。
城跡に近づくにつれて頭痛は増していき、痛みがひどすぎて胸がむかむかして吐き気までしてきた。シートにもたれて体を曲げ、つらくない体勢を探して痛みに耐える。
あと少しの場所まで登ると、ざわざわと音が聞こえ始めて、雑音はだんだんと大きくなっていった。
葉のこすれる音と思っていたものは大勢の人の声で、すべてに敵意を感じる。耳元で怒声や罵声を浴びせられている感覚でうるさくて頭に響く。
(頭が割れるように痛い!
これ以上、近づきたくねえ!)
頭全体が万力に挟まれたかのように締め付けてくる痛みがして、頭の中ではどくどくと速く脈打っている感覚がする。外と内側に痛みを感じていて目の奥が圧迫される。
歯を食いしばって音と痛みに耐えていたら車の速度が落ち、ゆっくりと止まってエンジン音もなくなった。
シートから体を起こして前を見ると城跡の駐車場に到着していた。ここから目的地まで歩かなければならない。
頭の中が大きく脈打っていて重く痛む。視界がぶれて景色をはっきり見ることができない。意識を集中させようとしたら気持ちが悪くなって目をつぶった。
「ロウ、どこに行けばいい?」
「……祭祀場跡……」
ふいに姉貴に質問されて思わず答えたら、運転席側のシートベルトを外す音がした。口がすべったと気づいたが遅かった。
「ロウは車で待ってて」
「一緒に行く」
「一人で行きたい」
「俺も……行く」
まだ日があるうちに出発したけど、とっくに日が暮れて辺りは暗くなっている。ここから祭祀場跡まで歩かなければならないのに街灯はない。そんなところを一人で行かせられない。
(くそっ、頭が痛い! 殴られてるみたいだ!!)
頭を少し動かしただけで痛みはひどくなる。内側から鈍い痛みがして息が荒くなり、全身に変な汗が流れている。動くと吐きそうになるから体を起こすことができない。
(息が苦しい。気持ちが悪い)
ドアロックを解除する音が聞こえ、姉貴は外へ出ようとしている。
「待て……一人は……危ない……」
上体を起こしたけど意識がぐらつく。気持ち悪くて動けない。
「大丈夫。車で待ってて」
「安全だという保障はないだろっ!」
(くそっ、情けねえ!)
息苦しくて、ぜぇぜぇと変な呼吸になっている。話すだけでも頭痛がして吐きそうで、本当は横になっていたいけど一人で行かせるわけにはいかない。無理やり立とうとしたら声がした。
「ロウ、大丈夫だ。
姉ちゃんが大丈夫って言ったら?」
いつもの明るい声ではなく、静かな口調で問われて顔を上げた。運転席にいる姉貴は自信ありげな顔をしていたずらっぽく笑っている。
(子どものころのままだ)
遊びに出かけるとき、姉貴はいつも先頭を進んでいた。「危険かも」と言えばたいてい変な出来事が起きて、「大丈夫」と言えばピンチな状況でも本当になんとかなる。
車の外へ目をやると城跡が影絵のように見えている。観光名所になっているので日中だと訪れてくる人がいる。しかし日が暮れると明かりのない暗い空間となり
山は広葉樹に囲まれた森となっていて城跡は完全に孤立している。夜になると虫の合唱が始まり、時おり聞いたことがない動物の鳴き声もして自然が支配する世界に変わる。
暗くて不気味な場所に来ているのに屈託のない顔で自信満々に言われると信じるしかない。何も言えないままでいると、親指を立てて「任せろ!」と言って外に出た。
運転席から出て後部席へ回ると、車内に置いていた買い物袋をあさり始めた。車に乗ったときから袋があったのは知っていたけど何が入っているのかは見ていない。
シートにもたれて横目で見ていたら袋の中から酒の一升瓶を取り出した。次に家から持ち出した紙コップをコンビニ袋に入れていく。目が合うと、にっと笑って「すぐ戻る」と言って車から出た。手を伸ばしたけどドアはすぐに閉まって、ドアのロックがかかった。
窓から姉貴の背中が見えていてどんどん遠ざかっていく。
ついて行きたいけど頭痛がひどくて目が回る。少しでも動くと気持ちが悪くて吐き気がしてつらい。意識を保っているのが精いっぱいで、本当は待っていろと言われて心底ほっとしていた。
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