島 ~距離が近い場所~

ふらりとやって来る

事故の連続


 一人だと物事の全容はつかめない――。

 言い切れるのは俺が体験したからだ。




 見通しのいい道で事故った。相手はいない。

 これだけだと「自損事故かよ、どんくせえ」となるだろうがバイクの操作ミスをしたわけじゃない。


 山道を抜けると一本道になっていて周囲は畑だ。畑は農作物が整然と植えられており、雑草は刈られて高い木もないから見通しはかなりいい。道の先には交差する広めの道路が見えていて、左右どちらも車は走っていない。


 田舎道は信号機が設置されていないところが多い。この交差点も信号はなかったから走りながら左右を確認し、カーブ手前で少し減速して曲がった。そこでナニカがぶつかった。


 物なんて何もなかったはずだ。すぐに衝撃を受けた側を見るけど何もない。でもナニカがバイクに当たっていて、ぐいぐいと押す感触がある。

 転ばないようバイクを立て直そうとしたけど、ものすごい力で押し返されて宙を舞った。そのまま地面へ落下し、肩に痛みが走ったところで意識が途絶えた。



 サイレンの音が大きくなるとともに意識がはっきりしてくる。呼びかけてくる声がして目を開けると、救急車で運ばれている最中だった。


 病院に到着したときには起き上がれるようになってて、自力で歩けると言ったけどストレッチャーに乗せられたまま運び込まれて診察を受けることになった。


 肩の痛みだけで大きな怪我はなかったのにCTだかMRIの検査を受けた。診察を受けている間に病院側が連絡したようで母が飛んできた。


 駆け込んできた母は蒼白になっていた。俺を見つけると、「あんまり心配させないで」とだけ言ってきた。安堵あんどした表情になったのを見て心配かけてると痛感し、ごめんと言葉が出かけたけど素直になれなくて黙っていた。


 無事を確認した母は医師たちと話し始めた。

 診察しているときに事故の状況を話していて、その話をもとに医師が俺の状態を説明し、これから事故処理とかに入るようだ。

 俺も加わろうとしたけど医師に安静にするように言われ、看護師が病室へ案内しようとする。不本意だがここは言われたとおりにした。


 あとで母が説明してくれたが俺が事故ったのを見ていたドライバーがいて、すぐに救急車を呼んでくれたという。搬送先は友人のジョウが入院している病院だった。


 ジョウは数日前から入院していて、見舞いに行く途中で俺は事故ってしまった。また来ると言っていたから、俺が来ないのを気にしているかもしれない。

 ジョウに会っておきたかったけど、母がベッドのそばにいるので遠慮した。母は一晩いる気だったが大きな怪我はしてないし、何より気まずいので面会時間終了とともに帰ってもらった。


 一人になれてほっとした。あてがわれた病室は大部屋でカーテンを引いても人の気配を感じる。看護師がたまに様子を見に来るのでベッドから離れられない。ジョウに会うのは明日にしよう。




 複数の声がして目が覚めた。

 カーテン越しでも明るく、朝になっていることがわかった。他人と話すのは面倒なのでそのままベッドでスマートフォンを見ていたら早い時間というのに母が来た。


 医師と話してきたようで、検査結果は異状なし、念のための一晩入院も問題なしで、今日中に退院できるという。退院手続きは夕方にするので、それまで病院にいるように言われた。仕事へ向かう母を玄関ホールまで見送ったあと、ジョウの病室へ寄った。


「ロウ!? なんで!」


「俺も入院してる」


「は……?」


 ジョウはかなり驚いている。無理もないか。

 きのう起こったことを話すことにした。


「学校が終わって、おまえの見舞いに病院へ向かったんだ。

 途中で山へ行った」


「山に行ったのかよ!?」


「ジョウが事故った現場が気になって。

 山に入ったらいつもどおり山頂まで登って、下りで事故現場を見てきた」


「なんか……あった?」


「道路にタイヤの跡。

 あとは木にぶつかった跡と崖下に車が落ちた跡だけ」


「……それだけか?」


「ん。別に変わった物はなかった。

 現場を見たあとは下って山を出た。山の先で交差する道路を曲がったトコで事故った」


 事故現場を聞いたジョウは不審な顔をした。


「あそこは見通しのいい道路だろう?

 バイクで何度も山へ行って走ってるし、テクのあるおまえがなんであんなところで事故るんだ!?」


 どう答えたらいいのか迷って言葉に詰まっていると、真剣な目をして聞いてきた。


「なんかあったんだろ」


「ん……。

 曲がった瞬間にバイクにナニカが当たってきて事故った」


「『何か』って?」


「わかんねえ。

 ぶつかった感触はあったけど何かわからなかったんだ」


「えっ? 意味がわかんねえぞ?」


「俺にもわかんねえ。

 バイクに何か当たった衝撃を受けたのに、当たってきたモノは見えなかったんだ。そいつはカーブでバイクが傾いていたのに押し返してきて、最後にはじき飛ばされた」


「…………」


(体験した俺でも何が起きたのかわかってないんだ。

 ジョウが情報を整理できないのは当然だ)


 困惑した顔をしていたのでもっと問い詰められるかと思ったけど、ジョウは考え込むように黙った。そのあとは違う話題に切り替えてきたから何か考えてるとわかった。


 心当たりでもあるのかと気になったが検査があると言うので、いったん切り上げることにした。検査のあとにまた話すことになり、俺の病室番号を伝えておいた。


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