月華きらめく泉
玉水(一)
1つ目のパワースポットは無事にめぐり終えた。2つ目に向かっている車内にはテンポのいい音楽が流れている。
「変わった音楽だね」
「テクノだよ」
「好きな音楽なの?」
「それほどでも」
「じゃあ、なんで流してるの?」
「俺が選んだわけじゃない」
マミの質問にジョウが答えたあと、車内に変な沈黙が流れる。
みんなの視線がドリンクホルダーに置かれているスマートフォンに集まっている。音楽はそこから流れていて、スマートフォンの持ち主はジョウだ。視線がジョウに移っても、平然としているので助手席にいるロウが口を開いた。
「ジョウは歌詞があると歌い出す。音程がずれるから聞いてられないんだ」
「音痴なわけないだろう」
「本人が気づいてないのが致命的だ」
「なぁ~に~? ジョウって音痴なの?」
「
「よせ……」
ロウの制止を無視して流行りのJ-POPを歌い始める。出だしは調子がよかったけど、だんだん音程がずれていって元の曲がよくわからなくなっていく。
「ストップ! ストーップ! 違う、そうじゃないわ!」
耐えられなくなったマミが歌っているジョウを止めると、代わりに頭から歌い始めた。歌いきって満足すると、ジョウが不思議そうに言ってきた。
「俺も同じように歌ってるじゃねえか」
「「全然違う」」
マミとロウが同時に即否定した。
すぐにマミはどこが違うのかジョウに解説し始める。二人のやり取りが面白くて、懸命に笑いをおさえていたカノコから笑い声がもれている。
「カノコちゃん、俺、ちゃんと歌えているよな?」
「あの、えぇっと……。ノーコメントで」
「そんなぁ!」
納得できなくてジョウは味方を求めたけど、残念ながらカノコの支持は得られず。マミは得意げに「ほらね!」と勝者宣言をした。
マミは隣で楽しそうにしているカノコを見てほっとしている。どうやってカノコを会話に引き込もうか考えていたけど、ジョウが彼女に声をかけてくれるので自然と話に入ってきている。
(カノコは相手の反応が怖くて聞き役へ回ってしまう。話を振られると固まってしまうことが多いのに普通に話せているわ。すごい進歩よ!
このままもっと自信をつけさせたい!)
ドライブ開始直後は、がちがちに緊張していたカノコの雰囲気がやわらいでいる。また話したことがない男子を相手に、カノコが懸命にコミュニケーションを取ろうと努力しているのが伝わってくる。
マミは会話が途切れないように話題をつなげていく。
「わたしがジョウに稽古をつけてあげるわ。今度四人でカラオケに行こうよ」
「いいねえ! 俺の美声を奏でてやるぜ」
「……俺は遠慮したい」
「えぇー? ロウくんはカラオケが嫌いなの?」
「逃げ場のない場所でジョウが歌うのを聞きたくない」
「おまえなぁ! なら、今、聞かせてやる!!」
ジョウが歌い出したのはさっきとは別のJ-POPで、この曲も全員が知っている。最初は問題なかった。でもやっぱり音程が外れていって別曲へと変化していく。
ロウは小さくため息をこぼすと助手席の窓を開け始める。後部席では「ジョウ、やめてー! わたしまで音程狂うよ!」と耳をふさぎながらマミが叫んでいる。ジョウがますます大きな声で歌い続けると、カノコも楽しげな表情で両耳をふさいだ。
パワースポットめぐりは順調に進んでいる。ジョウが運転する車は助手席でナビを務めるロウの案内でスムーズに2つ目のパワースポットに到着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます