城跡(四)
「どしたん?」
「ここから先はあまり人が行かない場所みたいだ。石畳が途切れて少し足場が悪い。明かりが多いほうが見えやすいから、まとまって行くほうが安全だ」
城跡には散策コースが設けられているけど眺望がいいところしか整備されていない。マミも何度か城跡へ来たことがあるが散策コースしか回ったことがなく、今から向かおうとしている祭祀場跡は行ったことがない。初めて行くのに整備されていないとなると暗がりは危険だ。
ロウの提案に賛成し四人は固まって移動を始めた。
高い城壁に沿う道は影ができ、周囲は暗闇がまとわりついている。
(こ、怖い! 夜に一人だったら絶対にこんなところに来れないわ)
これまで通ってきた石畳の道は雑草が取られ、整備されてて歩きやすかった。ところが祭祀場跡へ行く道は地面がむき出しになっている。
狭い道の先頭をロウが歩き、間にカノコとマミを挟んで最後にジョウが一列になって進んでいく。土が踏み固められただけの道は、短い雑草が生えていたり石が埋まっていたりして歩きにくい。
街灯がない城跡は月明かりだけでは薄暗く、ところどころに影ができる。ライトの明かりだけが頼りという状況にマミは不安を覚える。
(足音だけがやたら響いて不気味だわ。
沈黙が続くと怖くなる。何か話題を振らなきゃ……)
「ろ、ロウくん、先頭を歩くのは怖くない?」
沈黙を破ったのはカノコだった。ゆっくりだけど話を続けていく。
「わたし、夜に出かけたことがあまりなくて……。ちょっと怖い」
「出かけるといつも先を歩かされるから慣れてる」
「ロウはさ~、あんま動じないんだよ。
前に心霊スポットへ行ったとき、置いてけぼりにしてみたんだけど普通に戻ってきた」
「ロウくんはホラーとか好きなの?」
「あまり好きじゃない」
「そうなんだ。わたしはわりと好きでね――」
(奥手なカノコからロウくんに話しかけるなんて!
すごいよ、カノコ! 頑張っている!)
マミが会話に加わらなくても話し続けるカノコの進歩具合から、このままロウと二人だけにしようかと考えたけど、思い直した。
(手が震えている。勇気を出して話しているんだわ。ここで会話が途切れると、くじけるかもしれない。カノコに自信がつくまでは一緒にいよう)
「ジョウはホラー好きなの?」
「俺ぇ? 興味ないなあ」
「強がっているんじゃないの?」
「なんでそう思うんだよ!」
「ホラー映画を見てるときに、幽霊が出てきたらビビっていそうだから」
「どんなイメージだよ!」
マミは会話が途切れてしまわないように、ジョウに話を振って場が和むように努める。複数人との会話が苦手なカノコだが、マミの配慮もあって自然と話の輪に入っている。四人は順調に歩を進めて無事に目的地に到着した。
「なんか……普通だな」
「なに言ってんの! 香炉が置いてあるでしょ。ここは神聖な場所よ!!」
城跡の案内板に記載されていた祭祀場跡に到着して早々、ジョウとマミの声が響いている。
「パワスポめぐりっつーからさ、なんかこう、御神木とか御神体みたいな目印になるようなものがどっかにあるのかと思ってた」
ジョウが拍子抜けするのもうなずける。祭祀場跡は城跡の最も奥にある
狭いスペースには大きな古木もなく御神体と思わせるような大岩もない。地図が示していた場所には20センチから30センチくらいの大きさの自然石が5つほど雑に積まれており、前に香炉が置かれているだけだ。
また香炉も簡素なものだ。島の人には見慣れている香炉だけど、初めて見る人にはブロック塀に使われてる石と思うだろう。素朴な聖域にマミも正直、拍子抜けしていた。しかしここが目的地で
「ここって、オバーたちが拝む
(ジョウのやつ、意外と物知りね!)
ジョウとロウにはパワースポットめぐりと言っているが、マミとカノコの本当の目的は『チチヌユ
「城跡なんだから神聖な場所の一つや二つあるわよ」
「まあ、島のあちこちに
「
マミはさらっと流した。ジョウとロウが
「カノコ、願い事をしてね」
「う、うん」
カノコは香炉の前にしゃがんで両手を合わせると目をつぶった。マミもカノコのそばで同じように祈るような格好をしているが願い事はしていない。
(あれ? カノコ、何か言っている?
お願い事をするときは無意識に言葉が出ちゃうのかな。ふふっ、かわいいな~)
熱心に祈っているカノコにほのぼのし、マミは終わるのを隣で待っていた。
カノコの祈りが終わると、少し離れたところにいたジョウとロウと合流し、四人は来た道を戻っていった。
ライトの明かりが遠ざかると城跡に闇が戻ってくる。生ぬるい風が吹いて木々が騒ぎ始めた。
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