城跡(三)


 駐車場から遊歩道をつたい城跡の入り口に着いた。


 いくつかのくるわで構成されている城跡は敷地が広い。一番手前は公園の原っぱのようになっているので子どもの遊び場として重宝され、地元の人たちはピクニック気分で訪れる。


 また城跡は観光地として人気がある。へんぴな場所にあるというのに観光客がわざわざ足を運ぶのは名物があるからだ。


 城跡には天守閣がなくくるわが残っている。城壁は石積みなのに曲線が美しく、高台にあるため見晴らしがいいのが特徴だ。

 海風が吹き抜けて心地よく、眺める先には水平線と空の境目が見えて自然がつくったコントラストを楽しめる。見慣れた島風景だけど観光客には珍しいようだ。



 四人は城跡の入り口に設置されている案内板で足を止めている。


 マミとカノコにとってはここからが本番だ。『チチヌユまじない』を実行するためにパワースポットの城跡に来たが、まじないは城跡の中にある特定の場所で祈らなければならない。二人は食い入るように案内板をチェックし始めた。


 案内板には城跡のイラストマップがあり、複数の散策コースが紹介されている。要所には門跡、井戸跡、埋葬した人骨が出土した場所、住居跡など名称とイラストが記載されててわかりやすい。


「ねっ、カノコ、ここじゃない!」


「わたしもそう思う」


 祭祀場跡を見つけると小さな声で確認し合い、目的地がわかったのでマミはジョウとロウに声をかけた。


祭祀場跡コ コに行きたいんだけど、いいかな?」


 離れたところで城跡を見ていたジョウは呼ばれて案内板を振り向いた。首をかしげながら歩いてくるのでロウが「どうした?」と聞くと「なんでもねえよ」と返して案内板の前に来た。


 マミが指さしている場所を見て、ジョウとロウは渡された地図を広げて案内板にある位置と照らし合わせていく。


「ふ~む、ちょっと歩くな。ロウが先に行って案内しろよ」


「わかった」


「女子だけで後ろを歩かせるわけにはいかないから男女ペアな。おまえはカノコちゃんと行け」


「ん」


 マミは「やったー!」と歓喜の声を上げそうになるのをぐっとこらえた。どうやってカノコとロウをペアにしようか悩んでいたところ、ジョウが望んでいた状況をつくってくれた。


(ジョウ、グッジョブよ!)


 思わぬ助け船にマミはジョウを密かにたたえたあと、カノコを見た。案の定、突然のことにわたわたしてマミに助けてと視線を送っている。マミは目立たない位置で親指を立てるとウインクして、無言のエールを送った。


 カノコは動揺していたけど、ロウが「足元、気をつけて」と言って歩き出したら慌てて隣へ付いた。


 ロウとカノコの後ろに続くマミの顔はにやけている。二人の姿を見ていたため、足元がおろそかになり、つま先を引っかけた。


「あっ!」


「危ねえなあ」


 隣にいたジョウが手をつかんでマミが転びそうになるのを支えた。


「あ、ありがとう」


「暗いんだから足元に用心して歩けよ」


(ジョウの腕、力強い。わたしだって力があるほうだわ。でも男子とは筋力に差がある)


「何ぽかんとしてるんだ? まぬけづらに見えるぞ」


「う、うっさい! 誰がまぬけよ!」


 慌てて体勢を整えて立ち上がると、すぐさまジョウの腕をばしばしとたたき始めた。


「ぐわっ、怪力っ! いてて、いてえ」


 たたかれた腕を押さえると「骨が折れた~!」と言ってジョウがよろめく。わざとらしく騒ぐのでマミは「大げさなのよ!」と大きな声で返した。ふざけている間もジョウにつかまれた部分が気になっていて、感触が残っていることがなぜか嬉しかった。


「ほら、ちゃんと足元見て歩けよ。また転ぶぞ?」


「わかってるわよ」


 ジョウはライトの明かりをマミの足元へ向けると歩き出した。


 駐車場から祭祀場跡まで距離がある。歩き回ることを考えていなかったマミは、ビーチサンダルを履いてきたことを後悔した。


(暗いと石畳は少し歩きにくい。また足を引っかけそうだわ)


 用心しながら歩くのでいつもより歩みが遅い。カノコとロウのペアから遅れていることに焦りを感じていると、ジョウがずっと隣にいることに気づく。


(わたしと歩調を合わせてくれている)


 何も言わない心配りに焦りがなくなっていく。


(ジョウって外見は派手だし、ずばずばとものを言うから大ざっぱな性格だと思っていたわ)


 脳裏に学校の教室で学生服姿のジョウがおちゃらけている様子が浮かんできたけど、隣にいるジョウは学校では見ない一面が出る。


(私服のジョウはちょっと知らない男子に見える……)


 マミはいつもより鼓動が速くなっていることに気づかないまま足を進めていく。


 しばらくして先を歩いていた足音が聞こえないことに気づいた。マミが前を向くとライトの明かりが止まっていて、カノコとロウが待っていた。


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